第三幕、御三家の矜持
 きっと鶴羽樹の目当ては、スマホ以外の連絡手段だったのだろう。念を入れて「カバンひっくり返せ」とは要求するものの、パサパサと振られたカバンからは何の音もしなかったし、もちろん何も落ちてこなかったので、満足したらしい。ふん、と鼻を鳴らし、「いいよ、片付けろ」とまた戻すように告げた。同じことが私のカバンにもされた。


「さーてと、んじゃ各自保護者に連絡──“友達のところに泊まります”。まず月影」


 月影くんの手にスマホが戻された。随分と簡単に隙をくれるものだと思えば、私の首からはナイフを外さないまま、スマホ画面を監視しているようだ。何を見ているのか分からないけど、「ふーん、じゃあ相手を桐椰にでもしとくか。丁寧語も要らねーな」なんて頭上で話しながら連絡をさせている。


「次、幕張」


 月影くんのスマホが回収され、私の手にスマホが戻ってきた。メールを開くと「待て」と一度止められる。


「LIMEは?」

「……してないから」

「見せろよ」


 LIMEを開いて、友だちページをスクロールする。そこに名前がないのを確認すると、メールを打つことが許された。


「はい、まず送信済みメール」


 なぜその指示をされるのか分からなかったけど、どうやら不自然な連絡をして勘付かれるのを防ごうとしているらしい。送信済みメールを見せると、鶴羽樹は鼻で笑った。


「マジの母親じゃないからってんな他人行儀なメール打ってんの?」

「……なんでそんなこと知ってるの」

「知らないわけねーだろ。……あぁ、ちょうどいいのあんじゃん」


 彼が見つけたのは、数日前のメールの履歴だ。『日曜日まで用事があって友達の家に泊まります。夕食はは要りません』なんて、まさしくこの状況にぴったりの例文がある。


「同じように打って」


 こんなことをさせるということは、私達を探させたくないということだ。でも、それなら学校なんて場所じゃなくて、もっとわかりにくい場所に(さら)えばいい。それをしなかったのは、ただ物理力が足りなかったからなのか、別の目的があるからなのか……。


「……ひとつ訊いていい」

「なんだよ」

「……雅が来なかったのは、何か関係があるの」

「あぁ、菊池ね」


 その返事の仕方だけで、鶴羽樹が何かしたことは間違いなかった。


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