第三幕、御三家の矜持
「……寒いので暖房をつけても構わないか」

「ノリ悪いヤツだな。ヒント、月影、お前が今年の一月にしたことは?」


 問答無用で始まった、茶化すような軽口のクイズ。月影くんはそれに乗ることはなく、ただ無言でいる。

 でも、今年の一月といえば、御三家が三人バラバラだった時期。つまり、月影くんが女遊びをしていた時期。月影くんがそれを想起していないはずがない。


「わかんねぇ? ヒント、今年転校した女子の数は?」


 花高への転入してくる生徒は珍しくても、転校していく生徒は珍しくないこと。それなのに敢えて訊ねる理由は。


「ヒント、今年の一月に転校した女子の名前は?」


 月影くんの表情も顔色も変わらない。でもきっと、私が言葉を失ってしまうような推測が正しいからそんな態度でいるんだろう。

 私とは裏腹に、鶴羽樹が「ヒント」と嬉々として続ける。


「その女子の、幼馴染の名前は?」


 そこで漸く、月影くんが瞠目(どうもく)した。思ってもみなかった事実を引き当ててしまった彼の目に、一瞬だけ(かげ)りが差す。

 お陰で、理由もなく根拠もなく、ただ“怪しくないと言えない”だけで保留にしてきた人の思惑の片鱗(へんりん)に気付いてしまった──気がした。


「ヒント、その女子が、転校した理由は?」


 それでも、月影くんの顔からは、次の瞬間に感情など掻き消えていた。否──それどころか、更に次の瞬間には、太々しい、人を食ったような傲慢な態度に切り替わった。あぁなるほど、そういうことか──そう聞こえてきそうな横顔。

 それは、きっと、これから現れる人に向けられたもので。


「答えないなら教えてやる、月影」


 最近よく聞くその声は、その感情に任せるがままに冷然としていて、それでもどうしても穏やかだったから、彼の好さそうな柔らかい声は本物だったのだと知った。

 きっと、日頃受ける優しい印象も本物だったんだろう。だからこそ、そんな彼にここまでの目をさせる彼女は、とても大事な人だったんだと分かった。


「お前に辱められてる現場を先生に見られて、この学校で居場所を失ったからだ」


 それは、今までのヒントから容易に推測できて、今までの鳥澤くんの態度からは想像もできない凄絶(せいぜつ)な恨みの籠った答えだった。

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