第三幕、御三家の矜持
 確かに、少し無理がある。月影くんが女遊びをしていたのだってもう半年以上は前の話だ。今も遊んでるなんて聞いたこともない。何もなかったですと私は言うわけだし、月影くんの日頃の生活態度を考えれば、月影くんに軍配が上がるはず。

 詰めが甘い──。月影くんのように鼻で笑うことはしなかったけれど、それに関しては、私も同意見だった。

 それなのに。


「……足りないものっていうのは、これか?」


 (おもむろ)に鳥澤くんが懐から写真を取り出した瞬間、月影くんの目が見開かれた。


「……なぜ、君がそれを持っている」


 一体、何の写真だというのだろう。鶴羽樹に捕らわれ、鳥澤くんの後ろ姿と写真の裏面しか見えない私には分からない。


「まさかこんなのを撮られてるとは思わなかっただろ」


 月影くんの動揺を漸く見ることができて安心したかのように、鳥澤くんはまた別の写真を取り出す。片手で扇のように広げられた写真の数々が形勢を逆転させた。月影くんがぐっと眉間に皺を寄せ、鶴羽樹を睨んだ。


「……君が渡したのか、鶴羽」

「俺以外にいねーだろ? ……あぁ、鳥澤、コイツが意味わかんねーって顔してるから、写真見せてやれよ」

「……月影に見せれば十分だ」

「誰がその写真やったと思ってんだ? あ?」

「…………」


 鳥澤くんは、どこか遠慮がちに、私に写真の表面を向けた。暗闇で少し目を凝らし──見えてしまった写真に、戦慄する。


「なんで……」


 映っているのは、ホテルに入る私と月影くんだ。

 他の写真も、雅の事件の日の写真。ホテルに入った後、フロントにいる月影くん、カードキーを月影くんから受け取る私、部屋の扉から半分顔を出した私とそれに向かい合う月影くん──。


「これを教師達に見せたら、元からお前らはそーゆー関係だったってことになるってわけ」


 鳥澤くんがふいっと顔を背けた代わりに、鶴羽樹が下卑た笑みを浮かべて私を見下ろす。


「……じゃあ、あのときから、この計画が立てられてたってこと……」

「ま、半分だな。強姦(レイプ)が未遂だろうがなんだろうが、手さえつけりゃ御三家の誰かがホテルに連れて行くとは思ってたからさぁ、誰かとの写真は撮れると思ってたわけよ」


 どうしてか、そこで鳥澤くんがはっとしたように振り向いた。


「お前、」

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