第三幕、御三家の矜持
「それが月影だったってのは偶然」

「下劣だな」


 鳥澤くんを遮った鶴羽の言葉に対し、月影くんが吐き捨てた。淡々と計画の概要を暴いたのとは裏腹に、今の声と目には静かな怒りが灯っていた。


「鳥澤。君は、この写真の意味を今の今まで知らなかったんだろう」

「……だったらなんだよ」

「聞いての通り、その写真は俺と桜坂の仲を示したものではない。それどころか、桜坂を雁屋と同じ状況に陥れる最低な嘘だ」


 グシャ、と。鳥澤くんの手の中で写真が握り潰された。鶴羽樹は「あーあ、現像しなおしだ」と嘆く。


「これは俺が雁屋へしたことへの意趣返しなんだろう。その中で、君が桜坂に同じことをするのか」

「……うるさい」

「桜坂自身も含め、俺達がお前の告白を疑い続けたからまだいいものを、君は桜坂を利用して──」

「そう言えば、俺がやめると思ってるんだろ」


 鳥澤くんの声は、震えていた。その手の中の写真のことなんてきっと忘れてしまったんだろう、拳だって震えるほどに握りしめられていた。


「お前、美春の気持ち考えたことあるのかよ。美春はお前に襲われた、被害者側だ。それなのに何で美春だけが出て行かなきゃいけなかったんだ」

「それと桜坂が関係ないと言っている」

「だったらお前があの時大人しくこの学校から出ていけばよかったんだ!」


 月影くんの顔に、再び少しだけ翳りが差す。


「お前はその後も女子に手を出し続けてたくせに、成績が良いから、首席だから、金持ちだからって先生達に見逃されて! 美春だけが居場所をなくして、なんでお前だけまだここにいる!」


 泣き叫ぶような声に(なじ)られても、月影くんは答えなかった。鳥澤くんは乱暴にポケットに写真を突っ込むと踵を返し、「もういい」と呟いて鶴羽樹の横をすり抜けた。それを合図にしたように、鶴羽樹の片手がなぜか私のコートのボタンを外し始める。


「え……」

「んじゃそろそろ帰りますか」

「……鶴羽。お前が鳥澤に協力しているのはなぜだ」

「別に、協力なんかしちゃいねーよ」


 楽しそうな声がする中、手は休まずに動いて、コートのボタンを外し終えた。何をされているのか分からずに目を白黒させている私から少し離れたところで、月影くんが「鶴羽!」と声を荒げる。


< 318 / 395 >

この作品をシェア

pagetop