第三幕、御三家の矜持
 ──それなのに、その言葉が全身に緊張を走らせた。弾けるように視線を向けた先には複数の女子がいたけれど、不自然に黒いセミロングの髪をポニーテールにした人がビクリと肩を震わせたので、その人が口にしたんだと分かった。突然反応した私に驚いたのはその人だけじゃなかったようで、私に関する噂の声がピタリと()む。つかつかと歩み寄る先の人は、まさか私が怒るとは思ってもみなかったかのようにほんの僅か狼狽えている。


「今の、どういうこと」


 自分でもびっくりするくらい乱暴な声が出た。近くで見たその人の顔に覚えはない。背は私より少し高いくらいだった。隣に立つもう一人の顔にも覚えはなかった。


「どういうことって、別にそのままでしょ……」

「何で知ってるの?」


 問い詰めながら、半パンの裾にある刺繍の色を確認する。紺色ってことは同級生だ。隣の子のほうが幾分気が弱いのか、「ちょっと未海(みみ)、どーしたの?」と名前を白状する。その未海さんが動揺していたように見えたのは一瞬だけで、今は「はぁ?」と言いがかりでもつけられたような白々しい態度になっていた。


「知ってるってことは、マジなんだ」

「話を変えないで。なんで知ってるの?」

「なんででもよくない?」

「あの日のことを知ってるのは私と御三家しかいない」


 体の芯が、冷えた。原因は恐怖じゃなくて、怒りに近い。だって、あの日のことを知ってるのは当事者だけなんだ。正確には鹿島くんも知っているけれど、鹿島くんが知っているのは、裏で糸を引いた人物がいるからだ。つまり、私と御三家と雅以外で知っている人は、その裏で糸を引いていた人物くらいしかいない。それが目の前にいるこの人だとしたら──そう思うと、冷静ではいられなかった。


「それをなんであなたが知ってるの?」

「だからー……なんででもよくない?」

「それを決めるのはあなたじゃない」

「その喋り方ムカつくんですけどー……」


 それは私の台詞だし、埒が明かないのもあって苛々した。胸座でも掴みたい気分だった。もし、鹿島くんの言っていたことが本当だというのなら。


「雅を使って私を襲わせたのはあなた?」


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