第三幕、御三家の矜持
　その言葉には、自分自身に呆れたような溜息が混ざっていた。

　私たちが怪しんでやまなかった鳥澤くんの告白は、罠ではないはずがないと御三家が警戒してしまう点で計略としては謎だったけれど、それが肝だったらしい。警戒した御三家は必ず誰か一人以上を私につけるようになる。鳥澤くんはずっと、月影くんと私のセットになるタイミングを狙っていたんだろう。私一人では意味がなかった。帰り道に雅がいることは、鶴羽樹のお陰で分かっていただろうけれど、雅一人なら鶴羽樹がどうにかできる。それなら、松隆くんも桐椰くんもいない帰り、私と月影くんが二人で雅に合流するとさえ掴めれば、あとはタイミング次第だ。

　ただ、現実にはそんなタイミングは少ない。しかも他の生徒がいない時間帯となればなおさらだ。それを、私が松隆くんと桐椰くんと拗れているせいで今日みたいな日が珍しくなくなったというのは、鳥澤くんにとってはラッキーだっただろう。


「……鶴羽樹が出てきたとき」


　ただ、今回の月影くんには、いくつもの疑問があった。


「どうして、全然抵抗しなかったの。逃げ出したり逆らったり……少なくとも月影くんならもっと言葉で言いくるめようとするんじゃないかって……」

「それでできるのは時間を稼ぐくらいだが、そんなことをして人が通りかかる確率は低かったからな。それよりも、そんなことをしているうちに鶴羽樹がしびれを切らして君を──ナイフで刺すとまではいかなくとも、頬を切り裂くくらいはしただろうな、そのほうが問題だった」

「……鶴羽樹ってそんな頭いっちゃってる人なの」

「中学当時はそんな認識はなかったが、あの様子を見ていれば規範意識は低いだろうな。中学当時の素行は俺が知らんだけかもしれんがな、総と遼はつるんでいた時期もあったかもしれん」


　そっか、二人は中学のときに幕張匠と関わりがあるくらいには不良に片足を突っ込んでいる。それにしたって、あまりにも酷いことはしていないと思うのだけれど。


「あの二人がつるんでたってことは、少なくとも中学のときはまともだったんじゃ……？」

「分からん、遼の一時期の荒れ方は酷かったからな」


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