第三幕、御三家の矜持
 さらりと告げられたけれど、その酷さというのはどこまでのことを指すのだろう。少なくとも、鶴羽樹の残虐さというか、躊躇のなさを見ていれば、そんな人と一緒にいる桐椰くんなんて想像できなかった。


「総が鶴羽の連絡先を知っているのは、切ると厄介な相手だからかもしれん。実際がどうかは知らんが、他人にナイフを向けることに慣れていない者は他人を傷つけることに躊躇するものだ。君の首を意図して傷つけた鶴羽に、少なくともそういった躊躇いはないだろう」


 そこまで聞くと、鶴羽樹と対面してからの月影くんがほとんど無抵抗だった理由はよく分かった。照れ屋の月影くんははっきりとは言わないけれど、私に危害が及ぶから下手に刺激しなかった、それだけだ。


「……あと、さっきのことなんだけど」

「全てさっきのことだ」

「…………。……鳥澤くんに、なんであんなに酷いこと言ったの?」


 でも、鳥澤くんに対して、全く逆の態度をとったのは、なぜ。


「酷いこと?」


 視線を向けて促しても、月影くんはすっとぼけた。そんなことは何も言ってないと、ただの事実を告げたまでだと、そんないつもの声が聞こえてくる気がした。


「……友達の友達は友達じゃないからどうでもいいとか……幼馴染なんて関係ないとか……」

「事実だろう」


 さらりと返ってきたのは予想通りのコメントだったけれど、普段の月影くんからは予想なんてできなかったし、寧ろ真逆だった。

 どうしてか、緊張で息が(つか)えた。


「……耐性がなくて、どうとか……」

「あぁ、君は鳥澤と俺の遣り取りしか聞いていないから分かりにくかっただろうな」


 でもやっぱり、月影くんは淡々としている。


「概要は分かっただろう。冬頃、俺の女遊びが酷くてな。たまたまその相手の一人が雁屋という生徒会役員だったんだが、手を出した場所では施錠をし損ねていた上に、運悪く偶々やってきた教員に見つかってな。一応厳重注意で話は終わったが、その後も俺が生徒会役員に手を出し続けていたからな。雁屋もその一人ということで同級生の好奇の目に晒されることに耐えられずに転校した。その雁屋の幼馴染が鳥澤で、以後も能天気に在学している俺が憎くて仕方がなかった。それだけだ」


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