第三幕、御三家の矜持
 淀みのない説明は、いつでも理路整然と話す月影くんらしかったけれど、どうにも奇妙な違和感があった 。その違和感の一つはきっと、月影くんに対する信頼にある。


「……ねぇ、でも、鳥澤くんは、雁屋さんは被害者だって言ってたよね」

「そうだな」

「……月影くんが、女の子に手を出すとしても、無理矢理そんなことしないでしょ」


 もし鳥澤くんの糾弾が真実だとしたら、私の言い方は皮肉以外のなにものでもない。でもそんな言い方をしてしまうくらい、月影くんが無理矢理女の子にそんなことをするはずないという確信があった。

 でも、月影くんは顔色一つ変えない。私が椅子に座ったときからずっと同じ姿勢で、同じ無表情で、ただ頬杖をついてじっと虚空を見つめているだけだ。


「君が知っているのは、半年間の俺だけだろう」


 否定も肯定もせず、ただ私に任せるかのように、そんなことをいう。


「人はいくらでも変わる。今の俺が君の目にどう映っているかは知らんが、当時の俺がそうであった可能性を否定はできんだろう」

「……でも」

「そんなことより、保身の言い訳でも考えておけ」


 話しても無駄だ、そう切り上げるように、月影くんは腕と足を組んだ。次いで、ごそごそしていたかと思うと、椅子の背にかけていたコートを羽織る。コートを着ていると窮屈だから脱いだのだろうけれど、僅かな肌寒さが鬱陶しいんだろう。


「君の千切れた制服はコートの前ボタンを閉めれば誤魔化せんことはない。が、指導室か当直室に連れていかれたら脱がないのは不自然かもしれんし、逆に察されるだろうから、制服が見られることを踏まえて言い訳を考えたほうがいいだろうな」

「……それより、ここから出ること考えたほうが」

「無理だろうな」


 分かってはいたけれど、そうもきっぱり否定されると意気消沈する。


「二人が言った通り、扉の出入り口二か所は開かない。遼なら壊せたかもしれんが、俺には無理だ。廊下側の窓は完全に物で塞がれている。男二人の力ならまだしも、君と俺では動かせん。上の窓は小さくて出れんだろうな。庭側はバルコニーもなく、ただ三階の高さの窓があるだけだ。足をかける場所もない」


 私がうずくまっている間に見て回ったらしい。でも、見て回らずとも、こんなところに閉じ込められるってことは逃げ場はなくされてるんだと想像はつく。


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