第三幕、御三家の矜持

「……じゃあ言い訳は……」

「俺に無理矢理連れ込まれて乱暴されているところを警備員に見つかった、以上、といったところか」

「待って、それ何の言い訳にもなってないよ？」


　いつものツッコミ待ちかと思ったけれど、月影くんは何も答えない。まさか、本気でそんなことを言っているのだろうか。

　私に、月影くんを犠牲にしろと。


「……冗談でしょ？」

「じゃあどうする、不純異性交遊にするか。俺は君と噂になるなど御免だが」

「寧ろさっきの言い訳だと月影くんが私に実らぬ思いの丈を行動でぶつけたことになるんですけど、それはいいんですか？」

「生憎、ただ襲ったのであれば内心が伴わない類型も多々あるので問題ない」

「そこまでして私を好き設定が嫌なの！？」

「冷静に、共倒れより一勝一敗のほうがいいだろう」


　はぁ、と、考えるのも面倒臭そうに、浅い溜息を吐く。つまり、私だけ被害者面してろってことだ。


「……そんなの月影くんらしくない」

「らしいだのらしくないだの、他人を語ろうとするな」

「月影くん、手八丁口八丁大得意じゃん！　いくらでも言い訳の仕方なんて思いつくんじゃないの！」


　焦って早口になる私とは裏腹に、月影くんは欠片も狼狽(うろた)えない。それどころか観念したように肩を竦めるときた。


「生憎、俺は前科持ちに加えてあの写真がある。鳥澤が俺に対する怒りを隠せなくとも、好きな相手が他人に手を出されたという状況が作り上げられているのだから違和感などない。総と遼がどれほど俺達を庇っても、寧ろ御三家で口裏を合わせて君を恣(ほしいまま)にしようとしていると思われるオチさえつく。公式下僕宣言も何度もしているしな」

「だから私を仲間だと公言しとけばよかったのに」

「総が頼めば揉み消すなど造作もないだろうが、そんなことをして総の経歴に汚点を作る必要もないしな」


　茶化したけれどスルーされた。


「ただ、教員側も学年首席を手放したくはないだろうからな。君には示談というか、和解を求めるはずだ。警戒せずに一緒に密室に入った君にも責任はあるし、今回のことはなかったことにしよう、などといってな」


　事実ではあるのだけれど、自分で学年首席って言うとか……。本当、自信があるのかないのか分からない。

　ただ、そう考えると、あんまり心配はしなくていいのかな。