第三幕、御三家の矜持

「つまり、シナリオとしては、『桜坂さんが男子に襲われてメソメソしている。普通なら相手男子は停学退学当然だけどおっとまさかの月影か。ここで月影の内申に傷をつけると花高史上久々の東大がいなくなってしまう可能性大、そうなるといよいよ花高はただの成金高校に……。ここは桜坂にぐっと堪えてもらおう、うっかり襲っちゃうなんて若気の至りであるあるだ、油断してほいほいついていった君も悪いんだよ、さあ双方共に何もなかったことにしよう』って感じですかね?」

「くだらない脚色を付けて場を和ませようとしているのなら無意味だし迷惑だ、やめろ」


 冷ややかな声にバッサリ切り捨てられてしまった。折角面白おかしく語ってあげたのに。


「……ところで、君の父親は総の会社の系列に務めているか」

「ん? うん、松隆地所の取締役だよ」


 それがどうかしたのだろうか、と首を傾げると、深い溜息を吐かれた。この話とこの状況、何がどう関係するのか。


「そうなると教師側の忖度(そんたく)が働く可能性があるな」

「忖度?」

「金持ちには媚を売る」

「……つまり『桜坂さんは会社役員のお嬢様だ、しかも松隆関係会社と来た! これは月影の処遇如何(いかん)を訊ねるより先に厳罰な処分をしてお嬢様をお守りしましたと伝えたほうがいいだろう』ってことですか?」

「俺のツッコミ待ちの語りはやめろ。そういうことだな」

「でもそれなら、松隆くんのお父さんの主治医をやってるお父さんがいる月影くんのほうが優遇されるんじゃ? 絶対的に松隆くんっていうヒエラルキートップがいるわけじゃん、そのお父さんの友達ってほうが強いと思うけど」


 松隆くんのお父さんの友達といえば私のお父さんもそうだけれど、それを先生たちは認知してないだろう。松隆くんと月影くんの日頃の仲の良さ、松隆くん自身のかかりつけなどから、松隆くんのお父さんと月影くんのお父さんとの関係は分かっているかもしれないけれど。

 ただ、ふぅ、と疲れたような息の吐き方ひとつで、私の考えは誤りだと分かる。


「俺の父親の厳格さは前科の際に知れていることでな。寧ろ下手な忖度で逆に好感度が下がるることくらい分かっているだろう。俺の父親に媚を売りたいのなら、そうだな、俺の退学を打診して転校で妥協することが一番の措置だな」


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