第三幕、御三家の矜持
 月影くんはカバンの中身をもう一度漁る。その手で無造作にノートを掴み、まるで不要なものと言わんばかりに、放り投げるようにカバンに戻す。


「……そういえば、電気くらいつけない?」

「君が呆けている間に何度か試したが、電球が切れているらしい。今は物置代わりにされているから整備されていないのも仕方がないな。暖房がついて幸いだ、フィルター掃除がされているかは知らんが」


 ……今、は……?

 すぐに暖房の話をされて分からなくなりかけたけれど、その違和感は消えなかった。それが空気に出たんだろう、月影くんがはっとしたように口を噤んだ気配がした。

 じっと見つめていると、月影くんは暫く黙っていたけれど、ややあって口を開いた。


「ここは生徒会室だった」

「……だった?」

「金持ち生徒会に代わる際に物置に変わった。改装するにしても広さも足りなかったらしくてな、今の生徒会室はもとは応接用の宴会場だったんだ。パーティールームというほどではないが、それなりの場所として用意されていたものだ」


 どうりで、最初から予定されたみたいに豪華絢爛な(へや)だと思った。一方で、金持ち生徒会に変わったのが最近だというのは、言われてみれば矛盾していた。その矛盾点に気付いた瞬間に矛盾は消えた。

 だからか──。そっと、棚を見遣った。透冶くんの遺書が、この教室にあったのは、元の生徒会室だからだ。透冶くんはこの生徒会室と今の生徒会室の両方を使っていたから。


「……月影くん、ここに入ったことあるの?」


 その口振りから感じてしまった、違和感。月影くんは、透冶くんと違って、生徒会役員であったわけでもなく、生徒会役員補佐だったわけでもない。それなのに、まるで知っているかのような顔をする。

 月影くんは再び黙った。そこで、月影くんがこの教室に入るときに躊躇していた姿を思い出す。南京錠がついているのは見ればわかったはずなのに、確かめるように、扉にそっと手を触れていた。

 そして、もう一つ思い出す。

『あー……ここだけの話なんだが、去年、生徒会室でちょっと問題が起こったんだ』

 一学期、文化祭の前に、鹿島くんと初めて会う前の職員室で、蓼沼(たでぬま)先生から聞いたこと。

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