第三幕、御三家の矜持
 透冶くんの件には厳重な緘口令(かんこうれい)が敷かれていた。その証拠に御三家と生徒会役員のごく一部しか透冶くんの死は知らない。何らかの事件があったとすら知らない。透冶くんはただ転校したとしか思っていない。

 加えて、透冶くんが亡くなったのは、第六西の裏庭だ。

 ずっと勘違いしていた──違う、透冶くんの事件以外にこの学校で事件なんてないと勝手に思い込んでいて、些細な矛盾は記憶の引き出しにしまってあって、しまわれたことすら忘れていた。


「……月影くんが、雁屋さんに……」

「ご明察だ」


 私が言い淀んでいる間に、月影くんは少し早口で答えた。


「俺が雁屋に手を出したのは、この生徒会室だ」


 蓼沼先生が話していた事件というのは、この事件のことで。私達を閉じ込めるのにわざわざこの教室が宛がわれたのは、構造上適しているからとかそんな理由よりなにより、きっと雁屋さんの事件が起こったのがこの場所だからで。

 鳥澤くんは、全て知っていたから、この場所を選んだ。


「俺は二度、同じ場所で女子を犯そうとしたことになるわけだ。だから言っただろう、見事だと」


 投げやりに告げ、月影くんは徐に棚を漁り、漫画を取り出す。私の知らない漫画だったけれど、月影くんは表紙のイラストをさっと眺め、あらすじでも読むかのように裏表紙を暫く眺める。


「学校がどう処分するかはどうでもいいが、父がどうするかだな……。退学はさせんだろうが、学校を変われとは言われるかもしれんな」

「え、なんで」

「二度と同じことが起こらないよう、男子校に通わせ、登下校を監視するのが簡単かつ効果的だからな。退学という措置に意味はない、学ぶ場を一つ奪うだけだから」


 まるで他人事のような口調だけれど、その横顔は寂しそうだった。それを隠そうとでもするように、ふむ、これにしよう、とでも聞こえてきそうな頷き方をひとりでして、漫画を持って椅子に座り直す。月明かりでギリギリ読むことのできる明るさ。

 まるで、無理矢理気を紛らわせようとしているかのように。


「……ねぇ、月影くん」

「なんだ。暇なら漫画でも読んでろ、そこに並んでいる」

「……月影くん、漫画読むんだね」

「面白ければ何でも読む」

「……漫画は面白くないって言うと思ってた」

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