第三幕、御三家の矜持
 この学校にいる誰かが、雅をあんな目に遭わせた。嫌いなのは私のくせに、御三家と一緒にいるのが気に食わないなんて駄々っ子染みた理由で、雅を傷付けた。どこへ向けることが許されるのか分からない怒りを、拳を握りしめて抑える。未海さんは「いや、そんなの知らないし」と目を逸らした。


「つか、元カレに未練でもあんの? 御三家がいるくせにさぁ……」

「別れた相手に未練があろうがなかろうが、傷ついていいと思うかどうかは別でしょ。莫迦な話してないで早く答えて」

「は?」


 苛立ちが、言葉になって表れる。それは未海さんも同じだった。莫迦にされたのが癪に障ったらしい。これから汗をかくのにそんなに飾り立ててどうするんだと思うほどの顔が私を睨みつける。


「アタシ別にそういうこと言ってなくない? 未練あるのか聞いただけだし」

「前後の文脈無視して喋って相手に責任擦り付けるのやめてよ。いつになったら質問にも答えてくれるの」


 未海さんの隣の人は、思わぬトラブルに立ち会ってしまったといわんばかりに狼狽えている。私が背を向けたグラウンドでは男子の徒競走が始まっていた。それに構わず、私と未海さんとの間に不穏な空気が漂う。


「アンタ、その喋り方やめたら? こっち莫迦にしてる感じすげー腹立つんですけど」

「私の喋り方なんて今はどうでもいいでしょ」

「はぁ? 腹立つって言ってんの」

「いいから早く答えてよ」


 (そし)りとして発せられた言葉を聞いた瞬間に沸いた怒りは、中身のない会話のせいで余計に増幅する。そのせいで一瞬外れた理性が未海さんの胸座を掴むことを許してしまった。


「あの人達と組んで雅を襲ったのは、あなたなの」


 ぐっ、と、一瞬気圧(けお)されたかのように未海さんは喉を上下させた。


「キャアァァッ!」


 ──それなのに、突然被害者よろしく悲鳴を上げたので、私が(ひる)んでしまう。次の瞬間には未海さんの目からは目薬を差してもそんなに零れませんよと言いたくなるほどぶわっと涙が溢れた。


「え……」

「やだ……なんなの、桜坂さん……」


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