第三幕、御三家の矜持
「……年上でイケメンの執事とお嬢様なんて、ふーちゃんの大好きそうな設定だね」

「でっしょー!? 深古都(みこと)、超イケメンでしょ!?」


 辛うじてそうコメントすれば、ふーちゃんは輝く目で俄然勢いづいた。執事の深古都さんはやはり無表情で直立不動だ。


「それでもって料理も掃除も作法も完璧! あ、運動神経もめちゃくちゃいいんだよ? もう執事服着るために生まれたのかなってくらい超最高だよね!」

「……うん」

「あ、深古都は苗字なの! 名前みたいでしょ。フルネームは深古都景(けい)だから氏名書くとどこで切れるか分からないってよく言われるんだって」

「……うん」

「ていうか名前までイケメンってすごくない?」

「……うん」

「恋人はライバル財閥のお嬢様って設定なんだけど、どうかな?」

「……うん?」

「桜坂、行くぞ」


 最後の一文が理解の範疇を超えてしまい四十五度くらい首を傾げたけれど、月影くんも執事の深古都さんもスルーだ。私も会うたび会うたびよくわからない思考回路を聞かされているけれど、この二人はそれ以上に慣れているというのだろうか。執事はともかく、月影くんまで。……いや、月影くんは親しくない人相手でも無視を決め込むことは多々あるか……。


「二人とも帰る? それなら送っていこうか? 車だし」

「あ、あの、私は大丈夫……」


 月影くんが隣で口を開きかけたけれど、慌てていたせいで先に答えてしまった。ふーちゃんはちょっと首を傾げるけれど──雅のことを、探さなければいけない。

 鳥澤くんの登場で、さすがの月影くんもすっかり雅のことは意識の外にあったらしい。私の態度で思い出したような表情になったけれど、「薄野」とやはり親し気にふーちゃんを呼ぶ。


「諸事情でスマホを隠されてしまった。下駄箱あたりではあるらしいんだが、探してくれないか」

「そのくらい、おやすいごようですよー」


 返事をするがはやいが、ふーちゃんは早速スマホを取り出した。それから何度かタップする以上のことは何もしないので、何をしてくれたのだろうと首を捻っていたけれど、一階まで降りて分かった。電話をかけて場所を探してくれていたらしい。


「助かった」

「っていうほどじゃないと思うけどなー」

「着信すれば発光するので多少の手間が省ける」


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