第三幕、御三家の矜持
 バイブレーションの鳴るスマホを手に取った月影くんは、私の掌にもスマホを落とした。

 それをコートのポケットに入れながら、ふと気づく。どうして、ふーちゃんは月影くんの電話番号をさも当然のように知っているのだろう。


「……遼か?」


 そんな疑問が、その名前を聞いた瞬間に、飛び出そうになった心臓の代わりにどこかへ消えて行ってしまった。ハッとして月影くんを見れば、電話中だ。


「急にすまないな。実は菊池が行方不明だ」


 雅は探したいけど、よりによって桐椰くんに頼まなくても……! そう叫びたいのを必死に堪えた。因みに、ふーちゃんはきょとんとして月影くんを見つめるだけでノーコメントだ。執事の深古都さんはやはり無言で懐中電灯係を務めている。ただ、視線は余所へずれているので、ふーちゃんに従順なわけではなく、渋々従っている様子は見てとれた。

 それはさておき、だ。


「俺達も探す。だがいかんせんどこにいるのかおおよその検討しかつかないから──……あぁ、総はいない。桜坂だ」


 チラと視線が向いたので体が強張った。でも無視した月影くんの視線は元に戻る。


「坂守高校から花高へ来るルートに近辺にあり、管理人のいない倉庫を教えてほしい。おそらく監禁だと思う。……いかんせん菊池の状況が掴めんからな。早く探すに越したことはないが、すまん、頼む」


 私に何の相談もせずに一方的に電話を終えた。むっと恨みがまし気に月影くんを睨んでいると、いつも通りの冷ややかな目に射抜かれる。


「俺と桜坂が二人で動くのは危険だ。菊池が凍えているかもしれんが、俺達が再び監禁されては元も子もないので遼が学校に来るまで待つ」


 鶴羽樹が現れたときから、その冷然とした態度は崩れないままだ。だからこそ、奇妙な危うさというか……月影くんがそんな人じゃないと信じているのに、鳥澤くんの言葉が全て真実だからそんな態度でいれるんだという嫌な確信をしてしまう。

 ただ、それとは別に、いまこの状況では、どんなに雅のことが心配でも、月影くんの言葉が正しかった。


「……うん。じゃあせめて私もどこか検討はつける」

「それなら深古都も詳しいんじゃない?」


 ごそごそと、ふーちゃんがタブレットを取り出した。深古都さんから懐中電灯を受け取り、代わりにタブレットを渡す。深古都さんは顔をしかめた。


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