第三幕、御三家の矜持
「……私に何を探せと」

「坂守高校からウチまでの道で、不良が使ってそうなビルとか空き地とか、人を監禁できそうな場所を教えてくれないかなー? 深古都、ここら辺も詳しいでしょー?」

「……あぁ」


 妙にぶっきらぼうな返事をし、深古都さんは、白い手袋の指先を軽く噛んで手袋を外す。すかさずふーちゃんが写真を撮ったのは何もツッコまないでおいた。深古都さんはタブレットのマップを開いてさっと私達に見せる。


「不良が溜まり場にする空きビルや倉庫は、この近辺にあまり数はありません。少し前はもう少しあったのですが、お嬢様のご学友のご両親を筆頭に、息子や娘の通学路に管理人も住人もいない建物は好ましくないということで買い取られましたからね」


 お嬢様のご学友、という単語が一瞬脳内で処理できなかった。そういえば私達にタブレットを示すのは執事だし、ふーちゃんは松隆グループ系列会社の社長令嬢(だった気がする、あんまり覚えてないけど)で、口さえ閉じていれば二度見三度見したくなるほどの美女だった。ついでに、深古都さんが教えてくれた「好ましくないので買い取る」という理屈はよく分からなかったけど、もう言葉を丸ごと飲み込むことにした。


「綺麗なところほど汚したくなる性も、綺麗なところは汚しにくい心理も、両方分からなくもありませんが、正直この辺りの不良がそこまで豪胆とは思えません、遊びが中途半端ですからね。おそらく綺麗なところには寄り付かないと思います。ここらには河川敷もありませんから、あまり人を転がしておくところもありません……」


 となると……、とその目と指がマップを滑る。それは、思考力、というよりは経験則の語りだ。不思議な気持ちで見つめてしまっていると、ふーちゃんがそっと耳打ちしてきた。


「深古都、元ヤンだから」

「ひえ?」


 その容姿と喋り方から一ミリも結びつかない単語に、変な声が出てしまった。そんな私達を無視して、月影くんと深古都さんは何やらマップを見ながらぶつぶつ話している。


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