第三幕、御三家の矜持
「大丈夫、深古都の腕、まだ(なま)ってないと思うから! ピチピチの二十歳だから!」


 いや、驚いたのは阿吽の呼吸よろしく相手の意図を察するその関係に対してなのだけれど……。月影くんが頷いた。


「あれが本物の主従関係だ。見習え」

「だって二人は本物のご主人様と執事じゃん! 私と月影くんはなんちゃって下僕関係じゃん! 本当は友達じゃん!」

「今日だけで寒い冗談が何回目だと思っている、やめろ」

「その返事こそ寒い!」

「そういえば、二人は結局、あんなとこでなにしてたの?」


 思い出したような疑問は投げられて当然のものだった。でも鳥澤くんと月影くんの間の確執の内容が内容なので理由なんて口にできない。ただ、助けてもらっておきながら何でもないというのも……と月影くんに助けを求めようとすれば「何でもない」の一言で突っぱねてみせた。ただ、幸いというべきか、ふーちゃんがそんな態度を気にした様子はない。ただ「ふーん」と頷いてみせた。

 それでも話題がないのは変わらず、深古都さんと桐椰くんが戻ってくるまで車内には沈黙が落ちていた。雅を連れていないだけで答えは十分で、深古都さんが無言で車を出す。

 三人が当たりをつけた二か所目も、同じように二人が探しに行って、同じように手ぶらで戻って来た。


「おそらく次にはいらっしゃると思います」


 当たりをつけた個所は三か所だけだったのだろうか。桐椰くんも同意したように頷いた。


「代わりに見張りはいますよね。少し手前で下ろしてください」

「構いません。車が傷つけられるのは困りますが、ここらの不良なら多少知っているでしょうから、その心配もいらないでしょう」


 首を傾げたのは私だけではなかった。深古都さんは目的地に到着するやいなや、トランクから袋入りの竹刀を取り出し、竹刀袋を運転席の前に置き、竹刀をふーちゃんに渡した。


「お嬢様、お手数ですが私が扉を閉めた後、窓に立て掛けてください」

「いーよー」


 それが何の仕掛けなのか、説明もないままに深古都さんは桐椰くんを追っていなくなってしまった。一体、竹刀(と竹刀袋)ひとつが何だというのか。


「言ったでしょー、深古都は番長やってたって」


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