第三幕、御三家の矜持
 私達の住所を確認した深古都さんが車を発進させた後、それとなく訊ねれば、短い返事がきた。


「……怪我しなかった?」

「あぁ。つか深古都さんが鬼強かった」

「光栄です」


 端的で、抑揚のない声だった。まるで「それ以上いうな」とでも聞こえてきそうだった。


「……その見張りの三人は? 知ってる人だった?」

「いや、知らない。菊池も知らないヤツらだって言ってたし、この間と同じだろうな」


 夏休みの事件のことだろう。確かに、鶴羽樹が噛んでいるという意味では同じだった。

 ただ、あの時の狙いは私で、今回の狙いは月影くんだった……。鶴羽樹が私を狙っていて、私ありきで計画を立てていた鳥澤くんに協力したという説もなくはない。ただ、鳥澤くんの計画はあまりに私に甘すぎる。

 その違和感を桐椰くんに伝えたかったけれど、ふーちゃんのいる前でそんなことは話せなかった。ふーちゃんを信用していないわけではないけれど、生徒会役員であるのも事実。それを考えて桐椰くんも深くは追及しないんだろうし……。

 まぁ、桐椰くんも後で影くんに訊ねるなりなんなりするだろう。鳥澤くんと月影くんの確執を断りもなく桐椰くんに話すわけにはいかないし。


「あ、あの、私、少し手前で降ろしてもらえますか。家の前はちょっと、困るので……」

「畏まりました」


 お願いした通り、家から少し離れたところで深古都さんは停まってくれた。お礼を口にして車から降りようとすると、桐椰くんも一緒に降りる。


「……すぐそこだから大丈夫だよ」

「それでも何かあったら困るだろ」


 二人で歩くのは久しぶりだった。お陰で空気が苦しい。今まで何を話してたか、何を話すべきか分からなかった。きっとその原因は、久しぶりに歩くからだけじゃないけれど。


「で、何があったわけ」


 車から少し離れれば、黙秘を許さんばかりの冷然とした詰問がきた。分かっていたことだ。


「……帰りに雅と合流するはずだったのに、雅がいなくて……偶々学校に忘れ物取りにきたふーちゃんが車出してくれるっていうから、こういう流れに……」

「嘘」


 桐椰くんにしては珍しい、たった一言の弾劾。


「それでこんなに遅くなるまで俺に連絡しないわけねーだろ。大体、お前、首の怪我はどうしたわけ」


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