第三幕、御三家の矜持
 そして豹変した声に愕然とする勢いで目を点にしてしまった。なにこの人、女優志望か何かですか。さっきまでの鬱陶しさ全開の目はどこにいったんですか。私のことをアンタ呼ばわりしていた声は高さまで変わりましたけど、涙が自由自在に出せるなら声の変化も朝飯前といったところですか。面食らい過ぎて、今までの遣り取りが一瞬思考から消えてしまった。


「な……なんなの、って……」

「ちょっと、悲鳴が聞こえたけど」


 そして、タイミングよく登場したのは蝶乃さんだ。数カ月前のことを思い出して、顔を向けながら、デジャヴだ、なんて感想を抱いてしまった。今日の蝶乃さんはツインテールだ。そのハチマキは黄色、ということは応援プログラムで着るチアガールの衣装に合わせてツインテールのリボンも黄色なんだろうか。寧ろそれは逆にセンスがないのでは、なんて緊張感もなく心の中で完全な私怨で悪口を言ってしまった。そんな私の内心に気付きもしない蝶乃さんは、じろりと私の手を睨む。


「……何してるの、あたしの親友に向かって」

「うわ類友……」

「はぁ?」

「いえなんでも」


 思わず心の声が出てしまい、同時に手を離した。未海さんは「桜坂さんが急に……」なんて言いながらついにしゃくり上げ始めている。凄いなこの人、と最早呆れを通り越して感心してしまった。被害者になる演技だけなら一流かもしれない。意識してるのかどうか知らないけれど、その被害者演技はこの場所だから通用することだ。大勢の前で口喧嘩を繰り広げてしまった後だというのに、生徒会が幅を利かせているここでは、被害者ですと生徒会に訴えた側の勝ち。正確には、生徒会に毛嫌いされている私を相手にする以上、何があっても加害者が誰かなんて決まっているようなものだ。

 そうなったら、タダではやられない。慰めるように未海さんの隣に立った蝶乃さんを正面から睨みつける。


「副会長様が何の用ですか? いまこの人と話してるんですけど」

「あら、未海はアタシの指名役員だから。未海に関係あることはアタシにも関係あるんだけど」


 親友だって言ったけど公認の主従関係なのか……。蝶乃さんにとっての親友の定義と私にとってのそれとはどうやら違うようだ。顔がひきつるのを(こら)えた。


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