第三幕、御三家の矜持

(四)その未来が描けない。


「桜坂、これ、桜坂から渡してくれる?」


 その最悪のお達しを受けてしまった月曜日の朝の気持ちを、どう表そう。

 松隆くんから差し出されたのは紙袋だ。ご丁寧に渡す用の紙袋ももう一枚入った状態で、薄い箱らしきものがストライプの包装紙に包まれている。どう見ても──というか事前に買うことと買うものの協議は済んでいるので──どう考えても桐椰くんへの誕生日プレゼント。


「……えっと、なぜ、私が……」

「遼も俺から貰うより桜坂からのほうがいいでしょ」


 正直桐椰くんは誰から貰っても喜ぶだろうし、寧ろ今の状況では私が一番渡すべきでない人間な気がする。

 桐椰くんと暫く話してなかったと思ったらとある事故が起こったせいで完全にトドメを刺されました、なんていうのが先週の木曜日の話。お陰でお互いの腹を探ることすら怖くて何も話しかけられずに無視を決め込んでしまい、史上最長の一日を過ごしてしまったのが金曜日の話。

 で、とんでもないミッションを言い渡されたのが月曜日の話、と……。ただでさえ試験前の土日は勉強なんて手につかない有様だったのに、試験の三十分前にこんなことを言われては頭に詰め込んだ知識も文字通り風の前の塵に同じってヤツだ。


「その……松隆くんが私がほうが喜ぶんじゃないかな……」

「俺が渡しても変わり映えしないし」


 変わり映えするとかしないとかそういう話じゃないんですよ、リーダー。

 大体、松隆くんと話すのさえ何日ぶりなのか。久しぶりに会ってよりによってこの話題を選択するあたり、松隆くんはやっぱり何を考えているのか分からないというか、底が知れないというか……。


「……月影くんが渡すっていうのは……」

「なんで駿哉? 喧嘩してるのかなんなのか知らないけど、誕生日おめでとうくらいちゃんと言いなよ」


 これで仲直りしろといわんばかりに紙袋を押し付けられた。いくらなんでもあの事故をこの箱一つでどうにかするのは無理なんですけど、というかできれば触れたくないんですけど……。


「……みんなでお金出してるんだからみんなで渡せば……」

「学校でぞろぞろ男の周りに群れるのもどうかと思ってさ。どうせ試験終わったらみんなでご飯食べるし」

「でもその……」

「あとはあの中に入りたくないんだよね」
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