第三幕、御三家の矜持
 おそるおそる、様子を伺うような、自信のなさそうな声が口論を遮る。関係ない人に口を挟まれた鳥澤くんが訝し気な目を向けるのとは裏腹に、月影くんはあからさまにふーちゃんを拒絶した。


「薄野。君は関係ない」

「……あの」

「漫画なら返しただろう。早く帰れ」

「…………」


 ふーちゃんは何か言いたそうにしていたけれど、その口は真一文字に結ばれていて何の情報も与えなかった。ただ、二人の視線が秘密を確認するように交錯したのを見逃すはずがなかった。


「あの日、どうやって帰った」

「運よく外に出られてな」

「……窓も扉も全部確認したのに」

「当直の警備員には桜坂だけを見つけてもらった。桜坂は女子連中の嫌がらせで閉じ込められていたことになり、学校から出た後の桜坂に再度助けてもらった」

「ッ……」


 ……やっぱり、月影くんはその気になればあの場を乗り切ることができたのか。


「分かったらもうあんなことはやめろ。何度同じことをされても、お前の練った策くらいどうにでもなる」

「うるせぇよ!」


 怒鳴った鳥澤くんが思わず拳を握った瞬間、その腕が別の腕に掴まれた。ハッと振り向いた鳥澤くんの後ろにいるのは、騒ぎを駆けつけてきた桐椰くんだった。


「桐椰……」

「駿哉」


 ただ、桐椰くんは鳥澤くんを無視して月影くんを諫める。


「何してんだ」

「お前には関係ない。今は俺と鳥澤が話している」

「ここでできない話、あるんじゃねーの」

「あぁ、ここでされて気分のいい話ではない」

「……ちょっと来いよ。鳥澤も」


 桐椰くんは掴んでいる鳥澤くんの腕を引っ張るけれど、月影くんが鳥澤くんの胸倉を離さない。それどころか、胡乱な目を向ける桐椰くんに冷ややかな視線を返す。


「どこへ連れて行く」

「第六西でいいだろ。邪魔が入んねぇ」

「そこまでして聞く話はない」

「意地張ってねぇで聞けよ。俺達にも聞かれたくないってんなら聞かない」

「だから、俺には話はない」

「駿哉」


 桐椰くんの手が、鳥澤くんから離れて月影くんの胸倉を掴んだ。驚いて目を見開いた月影くんは、反射的に鳥澤くんを掴んでいた手を緩め、その隙に──桐椰くんに頬を殴られた。

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