第三幕、御三家の矜持
「月影は悪くないってことなんじゃないの……」

「雁屋さんって何したの?」

「どうせ勉強できる月影くんに嫉妬したんでしょ……」


 そして、さっきとは打って変わって月影くんの味方となる。その綺麗な掌の返し方が松隆くんの目を氷よりも冷たく変えた。


「おい、お前ら関係ねーだろ」


 同じように、氷柱のように冷たくなった桐椰くんの目と声が野次馬を一括する。茶髪になっても威圧感は健在なのか、その一言で蓋でも閉められたように騒めきはぴたりとやんだ。それどころか、黙っていてもその場にいることは許されないと察したように、おそるおそる端から群れが解散していく。


「……で、鳥澤。どうするの」


 まだ散り散りとはいえない群衆に呆れた目を向けながら、言葉だけが向けられる。


「お前、駿哉に何したの」


 それは、首筋にナイフを押し当てるように鋭い。


「……何……」

「というか、駿哉に何かしたってことは桜坂も使ったんだよね? 桜坂に純粋に告白しておきながら駿哉に何か仕掛けるのは出来すぎでしょ」


 皮肉交じりに笑い、松隆くんは鳥澤くんの胸座を乱暴に掴んで引き寄せる。桐椰くんがそれを止めることはない。


「答えによっては何をされても文句を言うなよ。ついでに気は短いほうだから、端的に教えてくれると嬉しいな。場所を移して、ゆっくり」

「…………」


 鳥澤くんは無言だった。ただ松隆くんの目をゆっくりと見つめ返し、少しだけ瞑目して、解放された胸元を整えることもなく、頷いた。松隆くんが「遼」と一言呼ぶだけで、桐椰くんは「文理でいいんじゃねーの」と答えた。


「桜坂はどうする?」

「……私は……」


 鳥澤くんの尋問に立ち会うか? ……私が立ち会う必要性は、嘘があればそれを弾劾することくらいだ。でもその必要性は限りなくゼロに等しい。代わりに、なんとなく、月影くんを探しに行かなければいけない気がした。

 きっとまだ学校に残っている、月影くんを。


「……ううん、私はいい」

「そう。じゃあまたね」


 私への挨拶は鳥澤くんへの催促でもあった。鳥澤くんは。松隆くんと桐椰くんに連行されるように歩き出す。私のほうへ一瞬だけ向いたその目に映っていたのが、諦念なのか謝罪なのか──はたまた後悔なのか、私には分からなかった。

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