第三幕、御三家の矜持
 三人の後ろ姿を見送った後、月影くんの下駄箱を確認しに行くと、案の定まだローファーはあった。月影くんの行先には第六西とラウンジという心当たりはあったものの、ラウンジは数があるせいでしらみ潰しに探すのは気が引けた。そもそも探しているうちに帰ってしまうのではとも思う。

 立ち止まって少し考えて──ふと、もうひとつの心当たりが浮かんだ。図書室。

 月影くんがまだ学校に残っているんじゃないかという直感。その理由は、雁屋さんと何があったか、ふーちゃんが知っていると分かったから。そしてふーちゃんの握る秘密を月影くんが握り潰そうとしていたのが分かってしまったから。

 あんなに感情を昂らせる月影くんを見たのは初めてだった。あの態度を見れば、秘密を抱えたふーちゃんに、(ひそか)に口留めをするなり、そうでないにしてもなんらか示し合わせるなりするはずだ。

 ……そう考えて、表情が曇るのを自分でも感じてしまった。そうだ。きっと、月影くんが嘘を吐いていた。

 急いで向かった図書室の前で、ゆっくり呼吸を整えた。そして扉に手をかけたけれど、ガチャンと鍵がひっかかる。明かりもついていない。でも妙だ、まだ遅い時間でもないし、蔵書整理の日でもないのに閉まっているはずがない。

 そっと、扉に体を近づけ、耳を(そばだ)てた。

 少しだけ、話し声が聞こえた。

 何と言っているかは判然としない、小さくてボソボソとした声だった。他人に聞かれることを懸念して声を潜めているんだろう。つまり、そこまでして聞かれたくないことを話している。

 目当ての二人以外がいるとの確信も持てなかったのでノックをするわけにもいかず、じっとそのまま廊下で待機した。

 すると、一分と経たぬうちにガチャンと鍵の開く音がした。


「……何か用か」


 現れたのは、案の定月影くんだ。その背後には俯いたふーちゃんもいる。


「何度も言うが、話すことはないぞ」

「……何、隠してるの」


 直球の質問でも、月影くんは眉一つ動かさなかった。ふーちゃんは私と目を合わせなかった。


「……雁屋さんのこと」

「首を突っ込むな。君には関係のない話だ」


 いつにも増してつっけんどんな態度は、まるで暴かれまいと焦っているようで。


「鳥澤くんに誤解されたままでいいの?」

「誤解などない」

「あるんでしょ」

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