第三幕、御三家の矜持
 月影くんの口から“親しい”と言われるふーちゃん、それと裏腹に“よく話す仲”としか言われない雁屋さん。その違いと──何より過去形であることが、シナリオを定めていく。


「雁屋は、厳しい家庭で育っていてな。元々、雁屋は特待で入れなかったことを酷く親に詰られていた。それを気にして、俺達と話すとき以外はほとんど勉強しているようなヤツだった。でも学年成績はずっと二位だった。だから、上にいる俺が邪魔だったらしい」


 月影くんの顔に浮かぶのは、誰かを蔑むような笑みだ。

 それは、誰を嗤っているのだろう。


「一番最初、君を御三家に勧誘する際、総と遼が説明したらしいな。男女には差がある。男子更衣室にいる女子は部屋を間違えたと言えば済むが、女子更衣室にいる男子は十中八九変態か下着泥棒との非難を浴びる。その通りだ」


 瞳さえ侵食するその蔑みの対象を知りたくなくて、目を逸らしたくなった。


「密室で、あからさまに故意に破られた制服を着た女子が、悲鳴を上げればどうなるか、想像に難くないだろう」


 ……きっと、それは、雁屋さんの罠で。


「……ただ、彼女の準備は甘かった。彼女が悲鳴を上げる前から、生徒会指定役員会議で(もぬけ)の空だったはずの生徒会室に、『図書役員は関係ない議題ばっかりだって知ってたから』『どうしても新刊の続きが気になった』と非常に馬鹿馬鹿しい、不真面目な理由でさぼっていたヤツがいてな。簡単に他の役員に見つからないよう、死角に隠れてこそこそと漫画を読んでいて。俺と雁屋がやってきて、雁屋が自分で制服を破って悲鳴を上げて飛び出すまで、一部始終を見ていた」


 罠にかけられておきながら(はま)らなかったことは、不幸中の幸いというべきなのだろうか。


「雁屋が教員に訴えたが、薄野が全て見ていたせいで、詰めの甘さが露呈した──雁屋のシャツの繊維が俺の手についていなかったんだ。今時小学生でも知っている初歩的なことすらクリアされていなかった。……結局、雁屋が俺を嵌めようとして、ミスを犯し、教員からの激しい非難と両親からの厳しい折檻(せっかん)の末、転校した」


 ただ、それだけだ──。月影くんはそっと笑った。自嘲するでも、その雁屋さんを嘲笑するでもなく、ただ寂しそうに。


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