第三幕、御三家の矜持
「……月影くん、どうせ、美春に邪魔だと思われてたって今でも言ってるんでしょ」

「……うん」

「……違うんだよ」


 静かな、それでもはっきりとした声が零れる。


「美春は、月影くんを好きだったんだよ」


 今となっては誰も知らないのだろう、真実と一緒に。


「……美春の両親、すごく厳しかったんだ。美春が二位なのをずっと責めてた。なんで一番になれないんだっていつも怒ってたみたい。だから美春はめちゃくちゃに勉強してた。でも自分より勉強しない月影くんに敵わなかった。……追い詰められてたんだよ、美春は。どうしても月影くんを追い抜かなきゃいけなくて、でも第四考査までずっと二位のままだった。……追い詰められて、月影くんを勉強以外で落とすしかないってなっただけなんだよ」


 それは、何も仕方ないことなんかじゃなかった。好きな人の存在が、何よりも自分を否定する材料になったって、それはその人を陥れていい理由にはならない。

 それなのに、この二人は雁屋さんを否定しない。

 正論ばかり突き付ける月影くんがそれをしないのは、きっと恋情があるからで、三次元なんて興味のなさそうなふーちゃんがそれをしないのは、きっと友情があるから。


「……最低なこと言うね」

「……うん?」

「……あたし」


 泣きそうな声は、苦しそうに、詰めていた息を吐き出す。


「月影くんのこと好き」


 その、それぞれの感情が、バラバラに崩れていて。


「ずっと、ずっと好きだった。月影くんが図書室に来るのが楽しみだった。漫画のために図書役員になったのは本当だったけど、月影くんが図書室に通ってくれのが本当に毎日の楽しみだった」


 月影くんと同じく過去形の語りが、感情を瓦礫と化そうとする。


「……でもね、だから、月影くんが美春を好きなのも、分かってた。美春が月影くんを好きなのも分かってた」


 ふーちゃんが自分の告白を“最低なこと”と形容した理由が、分かってしまった。


「ずっと見てた。だから、ずっと見てないふりをした」


 狡いよね、と震える声が告白する。


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