第三幕、御三家の矜持
「どっちかにね、教えれば、二人はくっついてたと思うの。あんなことにならなかったと思うの。でもあたしにはできなかった。美春のことも好きだったけど、月影くんが好きで、美春の後押しも月影くんの後押しも、あたしにはできなかった」


 恋愛に付きまとう汚い感情。きっとふーちゃんのほうが先に月影くんと仲良くなって、その後に雁屋さんが二人と仲良くなった。

 段々と月影くんと仲良くなっていく雁屋さんを、その雁屋さんに感情を向ける月影くんを、どんな気持ちで見ればよかったのか。その正解というか、自分を犠牲にする答えはきっと誰にでも分かるもので、でも誰にでも選択できるものじゃなかった。

 きっと、私でもその答えを選ぶことはできない。


「……美春のこともね、好きだったの。でも、あたしは月影くんをとった」

「……別に、とったとらないみたいな関係にはならないんじゃ……」

「月影くんをとったんだよ」


 その答えを選べないことは、何も悪いことなんかじゃないはずなのに。


「美春が先生のとこに行ったから、二人が事情を聞かれてたんだよ。美春が月影くんに襲われたって言って、月影くんはそれを否定しなかった。先生に何を言われても、呼ばれて来たお父さんに聞かれても、ずっと何も言わなかった。きっと、あたしが出て行かなかったら、美春は月影くんに襲われたことになって、それで話は終わってた」

「……でも、それは嘘じゃん。それを弾劾したからって……」

「そう、思うでしょ?」


 爪が食い込みそうなほど、ふーちゃんの手が腕を抱える。力を込めすぎて震えていた。


「あたしも、そう言い聞かせて、正当化してるの。あの時に出て行って、美春の言ってることが嘘だって、美春が自分で制服を破って月影くんを嵌めようとしてるんだって、告げ口したこと」


 告げ口──。その言葉の選び方が、自分への詰責(きっせき)だった。


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