第三幕、御三家の矜持
「……多分、月影くんが襲ったことになってても、月影くんは転校することにまではならなかった。先生は首席の特待なんて絶対逃したくないだろうし、月影くんは松隆くんと仲も良かったから。でも、美春は違った。そんな嘘で月影くんを嵌めようとした後に学校にいれるほど心が強くなかったし、学年二位以外には何もなかった。噂が広まれば月影くん推しに何されるか分かんなかった。……だから、美春のためなら、庇うべきだった」


 そんなの、おかしいじゃん。虚言で月影くんを陥れようとした人には後がないから庇うべきだったなんて、何の理由にもならないじゃん。月影くんは花高(ここ)にいることができるとしても、みんなからそういう目で見られることになるには変わりないじゃん。そんなことが許されるはずがないじゃん。だから雁屋さんがやったんだって本当のことを伝えることは、何も間違ってないじゃん。

 そんな意見が、月影くんに特別な感情を抱いているだけで、厭らしさを帯びる。


「……ねぇ、あたしも亜季に聞いていい?」

「……なに?」

「先週、二人が元生徒会室にいたのは、鳥澤くんに閉じ込められたから?」


 至極真っ当に辿り着くべき、その繋がり。


「……うん」

「……そっか」


 そっと、ふーちゃんは顔を上げた。綺麗なアーモンド型の目は、まるで泣きはらしたみたいに真っ赤で、その頬には涙の痕が走り、鬱陶しそうに髪がはりついていた。


「じゃあ、月影くんの嘘は、本当になってたんだね」


 その嘘を暴こうとしたふーちゃんに何と言うべきなのか、私には分からなかった。

 それから暫くして、ふーちゃんにはお迎えの運転手さんが来た。今日は平日の真昼間だからか、深古都さんではなかった。

 それを見送ればそこそこ時間は経っていて、松隆くんと桐椰くんが鳥澤くんから話を聞き終えているに違いなかった。三人は結局どこにいるんだろう、とLIMEを確認するけれど、特に新しい連絡はなし。


「桜坂さん!」


 代わりに、急に知らない先生に呼び止められた。なんだなんだと思ったら、何か訊ねる間さえ貰えずに「ちょっと応接室に……」とまるで内密の用事のように伝えられた。このタイミングで呼ばれるなんて、生徒指導室でないのがちょっとひっかかりはするけれど、理由は明白だ。

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