第三幕、御三家の矜持


 淡々と、先生を小馬鹿にしたような返答。なんなら学年首席の凡人発言は嫌味もいいところだ。


「月影くん……君はいつもそんなことを言うけどね、事実は事実として確認しておかなければいけないんだよ。鳥澤くんに何を言われたのか、なぜ鳥澤くんがそんなことを言ったのか、きちんと説明してくれないかね」

「覚えていません」

「……月影くん」

「思い出すことがあればお話ししますので、帰宅させていただいてもよろしいですか」


 許可を取る前に、月影くんは立ち上がった。多分帰ろうとしたところを捕まったんだろう、その足元にはカバンもある。


「期末試験の最中です。成績を落とすわけにはいかないので」

「……そうか。鳥澤くんと──」

「二人とは勉強会の予定があります。試験の一週間ほど前から三人でラウンジで勉強しているのは先生方もご存知の通りかと」


 強引に私達を連れて帰ろうとする月影くんに、教頭先生は暫く考え込む。その目は一度生徒指導の先生と合い、ついで私と合い、最後にもう一度月影くんと合った。


「……親御さんは、ご連絡がつくかね」

「つくと思いますが、必要ないでしょう。類型的に保護者への連絡は相手に怪我をさせるまでの暴行の有無が基準となっていますが、見ての通り僕は一切怪我はしておりません」

「他の生徒にも知れ渡るほどの騒ぎには例外もある」

「大抵の件は他の生徒も知るところでしょう。例外というほどの相違点は今回にもありません」


 屁理屈を返し続けられ、こうなった月影くんは何を言っても無駄だと思ったのだろう。先生二人はもう一度顔を見合わせ、諦めたように肩を竦めた。


「……思い出したことがあれば、すぐに言いなさい」

「はい。失礼します」


 月影くんは終始顔色一つ変えることなく軽く頭を下げた。私達にも「行くぞ」と短くいつも通りの声音で声をかけ、中々立ち上がらない鳥澤くんを「早くしろ」と叱咤し、のろのろと出ていく鳥澤くんの後に続くよう私を促し、私が出ると応接室から出た。


「桜坂、遼か総が送るはずだ」


 ピシャリと応接室の扉を閉めると、まるで何事もなかったかのように私に軽く促す。


「俺はラウンジに残る。先程の建て前を守るかどうかは君次第だ」


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