第三幕、御三家の矜持
迷いなどないかのように背を向けるくせに、その後ろ姿は一切の感情を抑えこんでいるかのように寂しそうだった。
私と鳥澤くんの間には微妙な空気が流れる。そっと顔を向けた先の鳥澤くんは、応接室にいるよりは感情の静かな目で床を見ていた。
その視界に割り込むと、優しい双眸が困惑に揺れる。
「あ……」
「……ね、鳥澤くん。失礼なこと言っちゃったらごめんね」
例えば、私に話しかけるときの表情とか。例えば、映画館デートの帰りに雅と遭遇したときの言葉とか。
「……私って、雁屋さんと似てる?」
月影くんは、私と出会ってから一言もそんなことはいってないけれど。
「……どうして、そう思うの」
「……演技に見えなかったから」
鳥澤くんの言動の端々には演技じゃない優しさが見えた。もちろん私がすっかり騙されてしまってたとも思えるのだけれど、鳥澤くんはそんな演技派に見えない。それなのにそう感じたということは、きっと鳥澤くんは本当に私に優しくしてしまっていたんじゃないかと。
そしてそれは、雁屋さんと私をどこかで重ねてたからじゃないかと。
鳥澤くんは頷かなかった。代わりに、沈痛そうな面持ちで口を開く。
「……美春は、桜坂さんほど強くなかったんだね」
それは、どの事実を指して言っているのか。
鳥澤くんは肯定するように苦笑した。
「……ちょっとだけね。顔は全然なんだけど、メガネかけてるってことくらいで。……無理した笑い方とか、元気そうで暗い雰囲気とかが、ちょっとだけ似てる」
見抜かれるような笑い方になっちゃってたんだ、と反省すると同時に、雁屋さんの人物像が少しだけ目に浮かぶ。
「……ハマに桜坂さんのことを話したのはわざとだったんだ。アイツ、すぐに面白がって喋るから」
「……うん」
「デートに誘ったのも、御三家の出方をうかがってたから」
「うん」
「勉強会も知っててあの場所に行った。ハマは知らなかったけど」
「うん」
「御三家と仲が良いのかとか、桐椰と付き合ってるかとか、全部月影と二人になるタイミングが欲しかったから」
「うん」
「……本当は、桜坂さんの名前を使って月影を呼び出すつもりだった」
「うん」
「……ごめん、全部嘘で」
私と鳥澤くんの間には微妙な空気が流れる。そっと顔を向けた先の鳥澤くんは、応接室にいるよりは感情の静かな目で床を見ていた。
その視界に割り込むと、優しい双眸が困惑に揺れる。
「あ……」
「……ね、鳥澤くん。失礼なこと言っちゃったらごめんね」
例えば、私に話しかけるときの表情とか。例えば、映画館デートの帰りに雅と遭遇したときの言葉とか。
「……私って、雁屋さんと似てる?」
月影くんは、私と出会ってから一言もそんなことはいってないけれど。
「……どうして、そう思うの」
「……演技に見えなかったから」
鳥澤くんの言動の端々には演技じゃない優しさが見えた。もちろん私がすっかり騙されてしまってたとも思えるのだけれど、鳥澤くんはそんな演技派に見えない。それなのにそう感じたということは、きっと鳥澤くんは本当に私に優しくしてしまっていたんじゃないかと。
そしてそれは、雁屋さんと私をどこかで重ねてたからじゃないかと。
鳥澤くんは頷かなかった。代わりに、沈痛そうな面持ちで口を開く。
「……美春は、桜坂さんほど強くなかったんだね」
それは、どの事実を指して言っているのか。
鳥澤くんは肯定するように苦笑した。
「……ちょっとだけね。顔は全然なんだけど、メガネかけてるってことくらいで。……無理した笑い方とか、元気そうで暗い雰囲気とかが、ちょっとだけ似てる」
見抜かれるような笑い方になっちゃってたんだ、と反省すると同時に、雁屋さんの人物像が少しだけ目に浮かぶ。
「……ハマに桜坂さんのことを話したのはわざとだったんだ。アイツ、すぐに面白がって喋るから」
「……うん」
「デートに誘ったのも、御三家の出方をうかがってたから」
「うん」
「勉強会も知っててあの場所に行った。ハマは知らなかったけど」
「うん」
「御三家と仲が良いのかとか、桐椰と付き合ってるかとか、全部月影と二人になるタイミングが欲しかったから」
「うん」
「……本当は、桜坂さんの名前を使って月影を呼び出すつもりだった」
「うん」
「……ごめん、全部嘘で」