第三幕、御三家の矜持
 ぽつぽつと吐露されたのは、実行された計画の裏側。でも、だからどうとは思わなかった。私に好意のない言動が丸わかりだったのもあるけれど、それとは矛盾した本当の優しさは感じていたから。

 先生に聞かれないように、少しだけ歩いた。本校舎から第二校舎へ戻る方向へ、周りには誰もいないのを確かめながら口を開く。


「……もう松隆くん達に話してるかもしれないけど、鶴羽樹とはどういう関わりだったの?」

「……関わりって言うほどのものはない、かな」


 嘘を吐いているとは思えなかった。ここで鳥澤くんが誰かのことを庇う必要はない。

 それなのに鳥澤くんは言葉に惑うように視線を彷徨わせる。なにを言いあぐねているのか、じっと見つめて辛抱強く待てば、その口が少し震えながら開く。


「……写真が入ってたんだ」

「写真?」

「……美春の。多分、月影の事件のときの写真」


 くっと、目を見開いた。月影くんが加害者だと思い込んでいたこともあわせれば、きっとその写真はただの雁屋さんの下着姿だ。ともすれば月影くんから逃れようとしているように見えるものかもしれない。


「……その写真の裏にあった連絡先が、鶴羽ので。それで今回の話を持ち掛けられた、っていうか」

「……計画に乗らなきゃ雁屋さんのその写真をばらまくって言われたんじゃないの」


 正解を弾きだしてしまったせいで、その横顔は凍り付く。

 それでも、震える唇は肯定も否定もすることなく。


「……でも、嵌めようとしたのは俺なんだ」


 藤木さんとは全く逆だった。鶴羽樹なんて分かりやすい悪人がいるのに、わざわざそんなことを自白する。


「……実際、ずっと、月影のせいだと思ってた」


 過去形は、月影くんの嘘がバレてしまっているということ。


「……美春が怒られる声、いつも俺の家まで聞こえてきたよ。……家が隣同士だったんだ。あの日は特に酷くて、何をそんなに怒られてるんだろうって思ってた。次の日には学校に来ないし、転校するなんて言い出すし、月影との噂を知ってる女子もいるしで……。……同じ目に遭わせてやりたいって思った。月影のことも」


 でも、とその目には罪悪感のような翳りが差す。


「……実は、美春、高校に上がってから、あんまり話してくれなくなってさ」

「……中学までは普通だったのに?」

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