第三幕、御三家の矜持
「うん。……なんとなく、理由は分かってたんだ。美春は特待になれなかったから」


 御三家が総なめし、残る二枠のうち一枠は鳥澤くんが勝ち取った特待。


「……前にちらっと話したけど、俺の家は普通のサラリーマン家庭だからさ。妹もいるし、花高なんてとても通えなかった。本当は公立に進学する予定だったんだけど、美春は花高だから、俺もどうしても行きたかったんだ。特待の存在知って、特待で受かったら通えると思って、親にもその条件でオーケーされてた」


 雁屋さんと──好きな幼馴染と一緒にいたいがための選択。当時を思い出すように鳥澤くんは苦い顔になる。


「ずっとバスケやってたから、死ぬ気で勉強したよ。あんなに勉強したの人生で初めてだと思う。バスケやんなきゃよかったって思うくらい、全然できないことにイライラもしてた。美春に教えられながらやることもあって……」


 どうしても一緒にいたくて、死に物狂いで努力して、望んだ成果を手に入れた。


「特待の通知、親がめちゃくちゃ喜んでくれた。母さんも父さんも、自慢したくて仕方がないってくらい喜んでた。俺も嬉しかったんだ。美春と一緒にいれるって思ったし……、うん、特待なるくらいいい成績とれたんだって嬉しかった」


 通知を受け取ったときの両親の誇らしげな顔が今でも目に浮かぶと言わんばかりに、思わず零れてしまったような笑み。それと切り離されることがないうしろめたさ。

 成果の代償は、幼馴染との関係。


「……美春の順位は知らないから、俺が美春をはじき出したのかどうかまでは知らない。でも、美春がプレッシャー感じる材料っていうか、まぁ、そういうものを俺が作ったのも本当。……あの頃からちぐはぐだった」


 だから、誰も鳥澤くんと雁屋さんの仲が良いなんて知らなかったんだろう。


「……本当は、半分くらい思い込みでできてたんだろうなって」

「思い込み?」

「……好きな人の好きな人って、分かるじゃん?」


 つい先ほど見たばかりのふーちゃんの泣き顔が浮かんだ。月影くんが好きで、ずっと見てた、だから雁屋さんを好きなのも雁屋さんが好きなのも知ってて、だから何も見ていないふりをしていたと。


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