第三幕、御三家の矜持
 (なじ)るわけでもなく、泣くわけでもない私に鳥澤くんが困惑したのは分かった。でもそんなことはどうでもいい。生徒会室へ走った。

 また、鹿島くんがいる。透冶くんの事件も、藤木さんの事件も、月影くんの事件も──どうして鹿島くんが何もかもを知っている事件ばかりなんだろう。鹿島くんは必ず事情を知っていて、それでいて関係ないところにいる。

 それが、気持ち悪いくらいの違和感を覚えさせる。

 試験期間で誰もいない廊下を走って、問答無用で生徒会室の扉を勢いよく開いた。

 生徒会室内は空っぽだ。──鹿島くんの席を除いて。


「……慌ただしいな。扉も備品なんだから、少しは丁寧に扱ってくれる?」

「……なんでいるの」

「生徒会長が生徒会室にいておかしいとでも?」


 小馬鹿にしたその笑みは、まるで私が来るのを待っていたかのようだった。

 後ろ手に扉と鍵を閉め、机を一つ挟んで向かい側に立つ。いつも通りの優等生顔をした鹿島くんは、ただ私を見上げる。


「何か用か? 生徒会長は試験期間中も仕事で忙しいんだけどな?」

「……どうせ、鳥澤くんの事件のこと、知ってるんでしょ」


 顔色一つ変えない。驚いた素振りも見せない。ただ眼鏡の奥から私を見つめ返すだけだ。

 どこか、面白そうに。


「……何か言ってよ」

「……何か、ね」


 カタン、とその手がペンを置く。

 そして立ち上がると、そっと私の後頭部を抱き寄せた。またキスされるのかと思って身構えれば、唇は素通りして、その唇が私の耳元に寄せられる。

 リップ音と共に、僅かな笑いを零しながら、吐息が耳朶をくすぐった。


「あぁ、残念、また失敗だ──とでも、言ってあげようか?」


 まるで、頭から冷や水をかけられたかのような悪寒が走る。


「教えてほしくてここに来たんだろ? 全部」


 そっと頭を撫でられる。(いつく)しむようなその手は、「よくやった」と褒めているようで。


「どこから話そうか? 今回の鳥澤の件か? 君が一番怖がった藤木の件か?」


 それとも、と唇は耳を離れ、私と目が合う位置まで顔が離れる。


「雨柳の件か?」

「……透冶くん、の……?」


 透冶くんの件は、もうBCCの後に聞いている。今更聞くことなんてあるはずが、ない。

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