第三幕、御三家の矜持
逆にあるとすれば──。不審さを募らせた私に、くっ、と鹿島くんの口角が吊り上がる。「帳簿操作って、死ぬほどのことだと思うか?」
たった一言のその台詞は、鹿島くんが話そうとしていることの大枠を理解するには十分だった。
だからこそ、信じられなかった。そんな、おぞましささえ感じる現実があったなんて……、信じたくなかった。
「……どういうこと」
「そのままの意味だよ」
それなのに、鹿島くんはいつだって私の予想を裏切ってくれない。
「こそこそ会計帳簿を操作して、まぁまぁの金を作ったっていっても何億何千万円なんてほどじゃない。それこそ親がぽんと弁償して、金を作った生徒も罪悪感ひとつなくふらふら遊んでる。なんで雨柳だけ自殺するほど追い込まれた?」
緊張で喉が上下した。聞かなければいけないのに、聞きたくなかった。
「……罪悪感が、あったから……」
「罪悪感」
小学生でもまだマシな返事をする。そう言いたげなオウム返し。
「そうだな。自分のしたことに対する罪悪感は大事だよな」
「……やめて」
声が、震えた。
雁屋さんの話を聞いてしまった鳥澤くんも、こんな気持ちだったのだろうか?
「人間誰でも間違いはある、その後に周りからどう扱われるか、どう言われるかがその間違いの後の人間の心も行動も左右する。だからアフターケアなんて言葉がある」
逆だよ──と。猫なで声が、残酷に告げる。
「そこそこの罪悪感を持ってるヤツを死ぬほど追い詰めるなんて、簡単なんだよ」
知りたくのない、真実を。
「雨柳が死んだ後の御三家はバラバラだった、笑えるくらい雨柳の死に振り回された」
『真実はいつだって美しいどころか目を逸らしたくなるような残酷さしか持ってねーんだから』
頭がおかしくなりそうだった。透冶くんの死を弄ぶ笑みに眩暈さえした。
「笑えるくらいって、透冶くんの死が──透冶くんがあの三人にとってどれだけ……!」
「そうだな、あの四人は気持ち悪いくらいクソみたいに仲が良かった。だから雨柳が死んだだけであのざまだ。月影は雁屋の件をあの二人に相談する余裕なんてなかった」
怒鳴ろうとした声は、体と同じく怒りで震えていて、続く言葉も喉の震えのあまり出てこなかった。
たった一言のその台詞は、鹿島くんが話そうとしていることの大枠を理解するには十分だった。
だからこそ、信じられなかった。そんな、おぞましささえ感じる現実があったなんて……、信じたくなかった。
「……どういうこと」
「そのままの意味だよ」
それなのに、鹿島くんはいつだって私の予想を裏切ってくれない。
「こそこそ会計帳簿を操作して、まぁまぁの金を作ったっていっても何億何千万円なんてほどじゃない。それこそ親がぽんと弁償して、金を作った生徒も罪悪感ひとつなくふらふら遊んでる。なんで雨柳だけ自殺するほど追い込まれた?」
緊張で喉が上下した。聞かなければいけないのに、聞きたくなかった。
「……罪悪感が、あったから……」
「罪悪感」
小学生でもまだマシな返事をする。そう言いたげなオウム返し。
「そうだな。自分のしたことに対する罪悪感は大事だよな」
「……やめて」
声が、震えた。
雁屋さんの話を聞いてしまった鳥澤くんも、こんな気持ちだったのだろうか?
「人間誰でも間違いはある、その後に周りからどう扱われるか、どう言われるかがその間違いの後の人間の心も行動も左右する。だからアフターケアなんて言葉がある」
逆だよ──と。猫なで声が、残酷に告げる。
「そこそこの罪悪感を持ってるヤツを死ぬほど追い詰めるなんて、簡単なんだよ」
知りたくのない、真実を。
「雨柳が死んだ後の御三家はバラバラだった、笑えるくらい雨柳の死に振り回された」
『真実はいつだって美しいどころか目を逸らしたくなるような残酷さしか持ってねーんだから』
頭がおかしくなりそうだった。透冶くんの死を弄ぶ笑みに眩暈さえした。
「笑えるくらいって、透冶くんの死が──透冶くんがあの三人にとってどれだけ……!」
「そうだな、あの四人は気持ち悪いくらいクソみたいに仲が良かった。だから雨柳が死んだだけであのざまだ。月影は雁屋の件をあの二人に相談する余裕なんてなかった」
怒鳴ろうとした声は、体と同じく怒りで震えていて、続く言葉も喉の震えのあまり出てこなかった。