第三幕、御三家の矜持
「俺はただ、大変だねと声をかけてただけだよ。帳簿操作の一件で周りからは白い目で見られ、生徒会はそのために大変革をすることになって、関係した生徒からはまるで雨柳が全部悪いかのように責められて。ただ、俺は優しく同情しただけだ。それが雨柳に堪えるって分かってたからね」

「っ……それが同じことなんだよ!」


 透冶くんの一件に関与していた人達がしたようないじめではない。法律に書いてあるような犯罪でもない。ただ、言葉巧みに、その心を握り潰した。

 まるで玩具で遊ぶように。


「松隆くんと何があるのか知らないけど、そんなことで透冶くんを追い詰めて……!」

「松隆との間には何もないよ」

「……嫌いだって」

「ただ嫌いなだけだよ。鼻につくとでも言いかえようか?」


 何もないのにそこまで嫌いになることが理解できない、そう顔に出てしまったのか、鹿島くんは何でもないように肩を竦める。


「松隆グループ代表取締役の息子。ただし次男を理由に義務も責任も兄に押し付けて自分はふらふら、幼馴染三人とつるんで好き勝手自由気ままに遊んでるだけ。──虫唾が走るんだよ、見てるとね」


 苦々し気な声には確かな嫌悪感が込められていた。

 でも、証明されるのは鹿島くんが抱いている嫌悪感だけ。

 嫌悪感を抱く理由は何一つ説明されていない。たった、それだけなのかと、絶句する。


「あぁそうか、愛人の子供なんかに──将来、適当な大学に入って適当な会社に勤めて結婚して子供産んで死ねば万々歳みたいな君なんかには分からないんだろうね? この世界に生まれることがどれだけの意味を持つのか」


 そんなの、分かるはずがない。


「生まれたときから全方位から評価されるんだよ、跡取りとしてね。こっちが立てばあっちが立たない、いつでも常にそう言われないように完璧を求められる。どこに行っても目がつきまとう、一生逃れられないプレッシャー。雁屋の行動だって君には理解できないんだろ? 親が成績のことをしつこく言うから一位に居座る月影が退学になればいいと思いました、なんて動機、馬鹿馬鹿しいって思っただろ?」


 確かに、独りよがりだとは、思う。


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