第三幕、御三家の矜持
「でも雁屋の世界では間違いなくそれは十分すぎる動機だったんだ。親から与えられる評価が全ての世界だったんだ。同じことだよ。俺達の世界では、俺達は常に『さすがですね』なんて一言のために生きなきゃならない」


 それは、よしりんさんも言っていたことだった。所詮二世ではなく、さすが二世にならなくてはいけないこと。


「君にだってあるだろう? 他人には理解されない、君にとっての最重要事項。例えば、義理の母親に認めてもらうこととかね?」


 きゅう、と、絞められているわけでもないのに喉が締め付けられた。

 例えばきっと、私が死にたい理由は桐椰くんには理解されない。

 同じように、鹿島くんの苦悩を、私には理解できないというのだろうか。


「だからねぇ、鼻につくんだよ、松隆は。よりによって松隆グループの次男でありながら、あの態度。そのくせどこにいってもアイツは有能呼ばわり。こっちがどれだけ苦労してると思ってる?」


 筋は、通っている。私が鹿島くんの苦悩を理解できない理由。鹿島グループの長男に生まれ、一瞬たりとも気を抜くことを許されずに完璧を求められ、完璧が当たり前だとされ続けること。その苦悩は決して軽々しく一蹴していいものではないのかもしれない。


「……だから、松隆くんの周りを陥れて、松隆くんが悲しめばいいって?」

「幼稚な言い方をすれば、そうだな」

「……くっだらない」


 でも、絶対に間違ってる。

 吐き捨てた私に、鹿島くんは表情を変えなかった。


「そんなの、松隆くんのこと知らないだけじゃん。松隆くんは適当に見えてやることちゃんとやってるよ。家出するくらい悩んでるよ。それを何も知らないで、にこにこしてるとこだけ見てるから能天気に笑ってんじゃねぇって言ってるだけじゃん!」

「家出してる時点で甘いんだよ」


 短く、冷たく、厳しい、それは(さげす)みだった。


「逃げることが、許されるはずないだろ? そういう生まれ方をしたんだよ」


 反論を許すまいとする強い語調に気圧されそうになる。

 でも、だからって納得できる話なんかじゃなかった。


「……何が言いたいのか、全然分かんない」

「だろうな。理解できるなんて思ってない」

「だったら──」

「君が望んだんだろう? 俺が鳥澤の一件を知ってるか知りたい、って」


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