第三幕、御三家の矜持
 ……その通りだった。

 納得できない理由だから知りたくないだなんて、自分勝手にもほどがある。

 それでも、と、悔しくなってしまうのはどうしてなんだろう。


「あぁそうだ、鳥澤の一件はまだ話してないんだっけ? 鳥澤にもね、俺は何もしてないよ。ただ、雁屋の一件を鳥澤の口から聞いて、月影が望む通りの真実を話してあげて、幼馴染としての心中を慮っただけさ」

「っ──」


 確かに、月影くんは雁屋さんが加害者側なんだと知られることを望んでいなかった。だから鳥澤くんにそれを言わなかったことは間違っていない。鳥澤くんに同情したことも。

 何もかも、間違ってなんかいない。そこに、吐き気がするほどの悪意を織り交ぜていただけ。


「あぁ、それからねぇ、君が転校してきてくれたのは本当に運が良かったよ。雨柳の死に理由を見つけたい御三家が鬱陶しかったのは本当だったから」

『今までは事故だの一点張り。それなのに急にコンテストに勝てば教えるなんて、事故じゃないって告白してるようなものだよね』

『……生徒会は透冶の事件の真相を話したいんじゃないかってことか』

「こっちはただ御三家(アイツら)の反応を愉しみたかっただけだっていうのに、生徒会のことを嗅ぎ回ってさ。雨柳の遺書が見つかると台無しだし、持て余してたんだけど、君が上手い具合に見つけていいタイミングで渡してくれて、本当によかった」


 最初と同じように、その手に後頭部を優しく撫でられ、ぞっとする。

 この、人は。どこまで綺麗に事実を隠しているのだろう。

 BCCが終わった後に説明された、透冶くんが死んだ理由に嘘はなかった。それは遺書を読めば分かる。

 ただ、鹿島くんが透冶くんの背中を押したとは聞いていない。でも、私達も訊きなどしなかった。そんなこと、考えもしなかったから。

 何一つ嘘がない中に隠れていた真実。本当と嘘が織り交ぜられた台詞の数々。

 どこまでが偶然で、どこまでが必然か。もしかしたら、松隆くんが嫌いだからという理由さえ嘘なのかもしれない。

 ただ少なくとも、一切の蹉跌(さてつ)をきたすことなく、思い通りに運ばれた計画は、もしかしてまだ先があるんじゃないかと、背筋を凍り付かせる。

 言葉も、声さえも出てこなかった。おぞましさのせいだけじゃない。

 聞かされたのは、誰も救われない真実だ。

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