第三幕、御三家の矜持

　鹿島くんが言葉巧みに慰めたせいで透冶くんが死んでしまったことが、全ての始まり。涼しい顔をして「ご愁傷様でした」なんて嘯く鹿島くんが、透冶くんが自殺するように見えない圧力をかけていたのだと、あの三人が知ってしまったら、その苦しみは想像を絶する。

　殺してやりたい、と。あの三人なら、きっと殺意さえ抱く。

　それなのに、その殺意に従ったところで、何一つ変わるものなんてない。きっと先にあるのは、せいぜい虚無感と喪失感だけ。

　そんなことまで、鹿島くんの思惑通りな気がした。


「……何を泣いてるわけ？」


　せせら笑いに、初めて自分が泣いていることに気が付いた。


「泣くほど御三家に同情してるんだ？　偽善者だねぇ」


　胸の奥がぐちゃぐちゃだった。たくさんの負の感情が込み上げて、ぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。

　どうにもこうにも救われないあの三人のことを考えるのが、どうしてかどうしても辛かった。


「……私が、理由じゃなかったんだ」

「ん？」


　辛うじて絞り出した声がしゃくりあげそうで、必死に堪えた。


「……鹿島くんが散々色々仕掛けてくるのは私が嫌いだからだと思ってたのに」


　もしも、松隆くんが、自分が恨まれてるとばっちりで透冶くんが死んだとでも思ったら、どうしよう。

　鹿島くんの行動は、笑えるほど子供じみていて、そのくせじわじわと松隆くんを追い詰める惨(むご)いほどの強(したた)かさに満ちていた。


「……次は、松隆くんが嫌いだから、私に付き合えとでもいうの？」

「あぁ、そうだね。好きな女の子が他の男にとられたなんて、滑稽すぎるね」


　心を踏みにじりながら、ただのお遊びのように、軽々に言葉を紡ぐ。


「……死んでも鹿島くんとなんか付き合わないから」

「だったら俺と付き合う前に死になよ」


　さらりと、おはようの挨拶よりも滑らかに、微笑みながら。

　今まで散々に言われてきたのに、心が冷えたのは、どうしてか。

　もしかしたら、御三家の誰一人として軽々しく「死ね」なんて言わないからかもしれない。


「あぁ、死ねないの？　これから君は御三家を傷つける餌になるのに、御三家のために死ぬことさえできないんだ？」


　ただの悪口雑言以上の意味を持つその単語を、ただの悪口雑言以下の軽さで聞かされることの、違和感。