第三幕、御三家の矜持
 そんなふうに言えるのは、私が死ぬことを何とも思っていないから。


「……できない」

「どうして?」


 優しい畳みかけ方が、怖い。


「……だって」

「いいことを教えてあげようか。学校に通っている間に死ねば、原因は交友・交際関係、成績不振、いくらでも世間が勝手に作ってくれるよ」


 反論を(つむ)ぎかけた唇は戦慄(わなな)いた。この人は、一体どこまで私達を見透かしているのだろう。


「……なんで」

「どうしたの? 死にたいんだろ?」


 事象の決定権を持つかのように、手を組んで、悠然と座る。


「大丈夫だよ。君が今死んだところで、君の養母の外聞が傷つくことはない。寧ろ周りからは娘を喪った可哀想な母親のレッテルを貰えて万々歳だ。君の懸念事項は十二分にクリアされる。どう?」


 心おぎなく死ねるだろう?

 そう、言われた気がした。

 その通りだった。鹿島くんの言うことは何も間違っていない。引っかかることなんて何もない。御三家を振り回す格好のネタにされる前に、退場するべきだ。

『死にたい?』

 ──それなのに。

『そうですね。あと六年後に』

 六年間も待つ必要なんてないと気付かされ、同時に、気付きたくなかったのだと気付かされた。

 本当は、私は。


「あぁ、その気がないなら別にいい。君がいるほうが好都合だから」


 いるならいるで利用価値はある、そんな声音だった。


「で。俺と付き合う?」


 でも、そこに何の価値があるのかは、分からなかった。





 生徒会室から出ようとして、桐椰くんのプレゼントを扉の傍に置いていたことに気が付いた。無意識に手放してしまっていたらしい。それを拾い上げてから生徒会室を出た。

 手の中の紙袋は、第六西に置くことに決めた。今から第六西に行ったら松隆くんもいるかもしれない。そのときは月影くんの件でごたごたしていたからうっかり渡し忘れた、なんて言おう。

 そうやって、御三家の誰かに会ったときの会話をいつも通りに楽観的にシミュレーションした。第六西まで行けば、明かりがついているので誰かいることは分かる。

 月影くんか松隆くんなら、うっかり渡し忘れたと誤魔化す。桐椰くんなら、だからいま渡すね、と渡す。あとは帰り道の会話さえもてばいい。

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