第三幕、御三家の矜持
 さぁ誰がいるのかな、と扉を開けると、ソファで頬杖をついて、桐椰くんが座っていた。視線だけで私を見る。


「……どうしたの」

「……別に」

「……あ、これ。誕生日おめでとう」


 紙袋を渡すと、何のことか分からないかのように、桐椰くんは暫く黙っていた。ややあって「あ、うん。ありがと」と短く答えながら受け取ってくれる。


「……総と駿哉との連名?」

「よくおわかりで」

「……雑貨? にしては軽いな」


 カサカサ、と軽く箱を振り、包装を開ける隣に座る。

 出てきたものに、桐椰くんは暫く無言だった。


「…………」

「……さぁ奥さん、よってらっしゃいみてらっしゃい! 料理をするとついつい服が汚れがち、エプロンは必須だけど洗うと皺になってなんだかみっともない! でもご安心、こちらのエプロン、サラサラな素材でできているので皺にならないのです!」

「なんでテレビ通販風だよ」


 誕生日プレゼントはエプロンだ。そこそこお値段のする、機能性に優れたエプロン。さすがにピンク色は可哀想だったので紺色にした。模様は水玉。

 購入が決定したときはどんなリアクションをとるだろうと楽しみにしていたけれど、今はこの有様だ。桐椰くんにはどんな顔をして会えばいいのか分からなくなっていたところに月影くんの事件が舞い込むときた。お陰で茶化して空気を和ませるのはギリギリの綱渡り、成功した今だって回れ右して帰りたくて仕方がない。

 でも、桐椰くんが小さく笑ったのでほっとする。


「……ありがとう。使う」

「うん」

「……鳥澤と話したか?」


 何も言われていないのに、月影くんの嘘に気付くことのできなかった自責の念まで聞いてしまった気がした。


「……うん」

「……駿哉とは?」

「……話したよ」


 あれ、でも、月影くんが話してくれたのは私にだけかな。


「……桐椰くんは話したの?」

「……あぁ。お前が来る前に」


 そうか。私が鳥澤くんと鹿島くんと話していた時間は、月影くんと話すのに十分だ。月影くんがどこまで話したかは分からないけど、あの状態の鳥澤くんからも話を聞けば、嘘を暴くのは簡単だ。


「……知らなかった」


 ぽつん、と寂しそうな声が落ちた。

 桐椰くんはソファに座ったまま、苦しそうに額を押さえ、息を吐きだした。


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