第三幕、御三家の矜持
「何よそれ。そもそもちゃんとヒエラルキーを守ってって言ってるんだけど?」

「そもそもそのヒエラルキーは君達生徒会が勝手に作ったものだ。瓦解してしまえば意味を持たない」

「何の話よ……とにかく、御三家の中に誰一人生徒会役員なんていないし、そもそも貴方達、特待でろくに学費も払ってすらいないじゃない」


 なんだと……。その言葉に、現状の険悪なムードも忘れてぽかんとした。

 特待は知ってる、文字通り特待生のことだ。毎年、入学試験の上位五名が特待生として学費を三年間無条件で免除される。ただし編入試験には適用がない。そして私達の代は、その五分の三の枠を御三家が占めているらしい……。どうせみんなここの学費なんてポンと出してしまえるのだろうけれど、多分それなりの名誉ではあるだろう。ついでに、思わぬところで桐椰家の家計が助かってる理由が分かってしまった。

『……駿哉は一年の頃から学年一位を一度も落としたことがない怪物だな。全額免除に奨学金貰ってる』

 そこで、最初に桐椰くんと会った頃の話を思い出す。全額免除だけではなく奨学金も貰ってるという月影くん。月影くんの家庭に収入面での問題はないだろうし、あの奨学金は特待生中の特待に貰えるお小遣い……?

『桐椰くんと松隆くんは貰ってるの?』

『……貰ってない』

 そして、私の疑問に対する回答はただの事実だったはずなのに、少し考え込むように一拍開けた桐椰くん。あれは、「特待の減免貰ってるから」なんて返事を躊躇したんだろう。つくづく優秀だな、御三家。

 そんな私の感心とは裏腹に月影くんは溜息を吐く。それはもう、静かに、疲れたように。


「君は総に毛嫌いされている理由を未だに分かっていないようだな。君の話はもういい」

「な──」

「俺が来る前から桜坂と話していたことを詳しく聞かせてもらおう」


 待てよ、月影くんってどこから話を聞いてたんだろう……。私と蝶乃さんの間に割って入ったのは遅くとも、それより前から私と蝶乃さんとの口論が聞こえていた可能性はある。しかも (勝手なイメージだけれど)月影くんは地獄耳な気がする。


「菊池を使い桜坂を呼び出し、更にそれを使い俺達を呼びだしたのは君か」


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