第三幕、御三家の矜持
 もちろん、八つ当たりじみたところがないとは言い切れないけれど……。上手く説明はつかないけれど、きっと理由のひとつは、月影くんがそれでよしとしているところにある気がした。

 沈黙が落ちる。桐椰くんは食い下がるべきか悩んでいるように見えた。

 それでも、その口が開いたときは「……そっか」と安心したような、申し訳なく思うような、複雑な、それで話を終わりにしようとする返事が来た。うむ、と隣で頷く。


「……だから私のことは気にしないで」

「…………」


 桐椰くんの口がもう一度「ごめん」と動いた気がしたけれど、それは声になっていなかった。

 それから少しだけ黙った後、桐椰くんは立ち上がる。


「送る」

「あ、ううん、大丈夫」

「あ?」

「あとね、私、第六西に来るのも、もう最後にしようと思うの」

「は?」


 桐椰くんは、今までとは打って変わって立て続けに頓狂な声を上げ、次いで訝しげに眉を顰める。


「何で急に……」

「あのね」


 できるだけ、にっこりと微笑んだ。


「鹿島くんと付き合うことになったの」


 つもりだったのだけれど。

 桐椰くんはただ、絶句した。


「……何、言ってる」

「じゃ、プレゼント渡しにきただけだから」

「ちょっと待てよ!」


 踵を返せば腕を掴まれた。声を上げる間もなく振り向かされて肩を掴まれて、そこまで怒られるとは思ってなかったので驚いてしまった。

 ……そうだ。怒られるだろうなとは、思ってた。

 でも桐椰くんは怒ってない。ただ悲痛そうに表情を歪ませているだけだ。


「……なんで?」

「……なんでって言われても」

「お前、鹿島のこと別に好きじゃないだろ」

「なんでそんなこと言えるの? 好きかもしれないよ?」

「どうせまた脅されてんじゃねぇのかよ」

「そんなことないよ」


 それは本当だった。鹿島くんは脅してなんかいない。申し出たのは私だ。

 ただの取引だ。私は鹿島くんの彼女だ。代わりに、鹿島くんは御三家に手を出さない。

 今までだって何一つ手を出してなんかいないよ、と(うそぶ)くから、誰かを煽動しないことも条件にした。鹿島くんはそれを呑んだ。

『いいよ。俺はもう、御三家の周辺を煽動しない。おまけとして、今後は鶴羽に指示を出さないことも約束してやるよ』

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