第三幕、御三家の矜持
「はい」

「……一応、ご実家に連絡したよ。お父様がいらっしゃるそうだ」


 父の前では、嘘を吐かないと思われているのだろうか。

 それとも、父の前では、虚栄を張ると思われているのだろうか。

 少なくとも、教諭の想定では、父が来ることで、少なからず俺に圧を与えることができ、それさえあれば、この件は穏便に収めることができるということだろう。

 もうすぐ父親が来ると聞かされ、待つ間、何も考えることなどなかった。直感の通り、この場は、どこか裁判に似ていた。俺が犯した罪となる事実があり、被害者である雁屋の証言があり、教諭による俺への質問があり、情状のために父親が来る。もしかしたら、父親が来るのは、自白の任意性を争うためかもしれない……。最近見た、数年前の冤罪事件の映画のことを思い出しながら、自分以外の人間の役を考えていた。


「駿哉」


 父がいつ来たのかは、覚えていない。結局、頭の回転が通常通りになったというのは、ただの勘違いだったようで、可愛らしくも、自分は動揺したままだったらしい。


「先生から事情は聞いた。間違いないと言ってるそうだが、本当にそうか」


 自分とよく似た目が、レンズの奥から問いかけてきた。その目には、宣誓など比にならない、嘘に対する抑止力があった。

 だから、月並みにも、見ることができなかった。


「本当だ」

「間違いなくそうだと言えるのか」

「間違いない」


 そうだ、裁判なのだから、ここは法廷なのだから、俺は教諭に対して答えたということにしておこう。そんな言い訳をしていた。


「間違いない、じゃ、ないんですよ! うちの子が学校に行けなくでもなったら、どうしてくれるんですか!」


 被害者の母親は、どんな立ち位置になるのだろう。せいぜい証人だろうが、法廷に出てくる話は聞かない。しかし、警察が全く事情を聞かないということもないだろう。警察の捜査に関わることと裁判に関わることとは別だが、分からないことに変わりはない。これは帰って調べておこう。


「普段優等生だからって甘くされては困ります! 日頃は先生にいい顔をしているからこそ、余計に悪質ではないですか。厳重な処罰をしてください!」


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