第三幕、御三家の矜持
 それからは、雁屋の母親と薄野の──感情的ではあるが──舌戦だった。さながら反対尋問のごとく「生徒会室にいたことは誰が証明してくれるんですか?」「本当に見てたなら最初から言えばよかったじゃないですか、今までの間に物語を作って来たとしか思えません」「大体、娘のついた嘘だというのなら、なぜ月影くんは黙っているんですか」と隙を突く。薄野は、「本当は生徒会の会議があったところを、私が出席していなかったんです。それは生徒会長達が知っています。その間生徒会室に私がいたことは、証明はできませんけど、隠れて漫画を読んでいたんです」「見ていたとはいえ、本当のことを話していいのか悩んでたから、中々来ることができなかったんです」「月影くんが何も言わない理由は……あたしには想像しかできませんけど、何か事情はあるはずです」と言い返す。

 二人の論争の間、父は無言だった。加害者とされる生徒の父親が口を挟むと、火に油を注ぐと思っていたからだろうか。


「大体、そう言ってるのはあなただけでしょう」


 教諭達に宥められた後、駄目押しとばかりに、呆れたような溜息交じりで、雁屋の母親は薄野を(なじ)った。


「元々、月影くんと……、かなり、親しいんじゃないんですか? そんな生徒の話なんて、仲の良い男の子を庇ってるかもしれませんし、信用できませんよね」


 どう切りかかられようと負けじと反撃していた薄野が、そこで言葉に詰まった。雁屋の母親は好機とばかりに畳みかける。


「月影くんは──こんなこと言いたくはないですけれど、うちの娘に少なからず好意があったから、こういうことをしたわけでしょう。もし、あなたが彼のことを友達以上に思っているなら……」

「それはさすがに言葉が過ぎますよ」


 皆まで口にする前に、父が割って入った。


「私が口を挟むのも烏滸(おこ)がましいですが、それは、今は関係のない話です」


 だが、皆まで言わずとも、口にしてしまえば、それだけでそれは価値のある意見なのだ。一瞬でも教諭達に疑念を抱かせればいい。そういった類の発言だ。

 実際、教諭達の目には疑惑が浮かぶ。

 だが、その疑惑とは、どちらの何に対する疑惑か、それこそ疑義があるようだ。

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