第三幕、御三家の矜持
 その特定の人は、偶々片付け損ねていた俺の机の上を見て、そんな感想を漏らした。その感想を口にしたときに感じた微かな違和感の正体に俺はずっと気が付かなかった。そんなことを思い出して瞑目する。もう随分と前の話だ。

 不意に、ブブ、とスマートフォンのバイブレーションが鳴った。机の上のそれを手に取ると、御三家LIMEが稼働していた。桜坂のいないグループLIMEだ。バイブレーションを鳴らしたのは総からのもので、「あぁ、普通にいけた。渋い顔してただろうけどね」とその笑みが目に浮かぶような言葉が届いている。昼間に話していたことの続きだった。その後に「そりゃ教師からしたら厄介にもほどがあるだろうしな」と教師に同情するような言葉が続く。その遣り取りに「ではそのまま進めていて構わないな」と確認の言葉を打ち、明日のアラームもセットされていることを確認し、充電コードに繋いだ。

 さて、と机の上を片付ける。あれ以来、机の上を片付けずに眠ることはない。それが何を意味するのかは分かっているが、認める気がないので、ただの几帳面な自分の習慣だと言い聞かせる。

 パタン、と。本を閉じる音が、一人きりの静かな部屋に響いた。





 新学期二日目。夏休みを終えたところで元々さしたる感慨はなく、夏休み前も昨日も今日も、同じように平淡な一日を終える。残すはホームルームと体育祭競技の話し合いだけだ。担任の先生が教室に戻って来るまでは誰もが暇を持て余して思い思いの友達とお喋りをしている。話し相手が背後の一人以外にいない私は椅子の背に凭れた。


「きーりやくん。ホームルーム始まるまで暇だねー」

「そうだな」

「もう九月なのになんでこんなに暑いんだろうねー。学校はいいけど帰り道暑くて仕方ないよ」

「仕方ないだろ」

「あれ欲しいよね、学校から自宅まで直通の……ムービングウォーク! 屋根付きで。子供じみた発想だけど」

子供(ガキ)かよ」

「だからそう言ってるじゃん。明日なんてさー、絶対疲れてまともに歩けないよ」


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