第三幕、御三家の矜持
「蝶乃さん、クラスマッチのときにも私に言ったことあるんだよね。無条件に愛してもらった人は言うことが違いますね、みたいな嫌味。さっきも温室育ちがどうだの言ってたし、その手の人のことが嫌いなんじゃない?」


 その誹りから立つ推測は、蝶乃さんは蝶乃さんの両親と折り合いが悪いのかな、ってことだ。わりと具体的な言葉だったから余計に分かってしまう、“つまり蝶乃さんは条件付でないと愛してもらえなかったのかな”“蝶乃さんは温室とは程遠い厳しい家庭環境で育ったのかな”と。その推測が正しいのだとしたら、要は蝶乃さんは絵に描いたような家族愛を受けて育った人が気に食わないんだろう。そして何よりもそれを当然だと思っている人が。なぜならそれは蝶乃さんにはないものだから。


「蝶乃さんのお母さんってあのB.B.の社長なんだよね? 実際蝶乃さんも生徒会に入ってるわけだし、それだけのお金持ちとなるとお(うち)は色々大変なのかもしれないね」


 ただ、それは幸せな家庭で育った人を詰っていい理由になるのかというと、きっとそうじゃない。それこそ松隆くんなんて家出用に第六西を作ったくらいだ、家のせいで嫌な思いは散々してるだろう。でも松隆くんは決してそんなことは口にしない。俺の不幸は俺の不幸、お前の不幸はお前の不幸、他人の不幸と比べるな、そんな人だ、松隆くんは。そんなことを思う度に、松隆くんは頭が良い人だなぁと思う。

 そんな私の所感を読み取ったのか読み取っていないのか、月影くんは馬鹿馬鹿しそうにふんと鼻を鳴らした。


「知らんな。苦労も不幸も勝手にやってくるものだが、他人を見下す理由にはならん。寧ろ、見下す理由に使うとき、大抵は自分のできない何かを環境に責任転嫁しているに等しいものだがな」


 そして、そんな感想は、努力家の月影くんらしい言葉で、どこか耳の痛い言葉だった。そうとは気付かれないようにいつものように笑って誤魔化す。


「達観してるなぁ、御三家は。普通そんなことまで考えられないよ。本当、桐椰くん以外ドライなんだから」

「……君に見せないだけで、遼も冷めているところは相当冷めているがな」


 え? どういう意味なのか分からずに、咄嗟の言葉も出ないほど詰まってしまった。月影くんの横顔にはどこか重々しい空気感がある。お陰で失言をしてしまったのかと狼狽えてしまった。


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