第三幕、御三家の矜持
「その……それはどういう……」

「……そんなことより、最近の君と遼が仲をこじらせているとよりによって総から聞いたんだが?」


 が、いつも以上に刺々しい言い方に、話題も相俟ってゲッと顔が引きつった。月影くんもじろりと私を睨んでくる。お陰で視線を泳がせた。


「だってー……私は全然そのつもりないのに、桐椰くんが変な距離の置き方してくるっていうか……」

「何かしたから距離を置かれるんだろう」

「出たよつっきーの私絶対悪い者説」

「その通りなんだろう」

「……そうですね」


 勿論理由もなく桐椰くんが私に距離を置くことはないという意味では私のせいなんだけれど、悪いことをしたわけじゃない。同時に気が付いたけれど、そっか、月影くんになら優実の話をしても問題はない。


「実はー、ですね……」

「あ! おねーちゃん!」


 そこで、話題に上らせようとしていた人の声がタイミングよく現れる。はっと辺りを見回せば、体育祭の暑苦しい景色にそぐわぬ涼し気な恰好をした優実が、校舎のあるほうから手を振っていた。オフショルの白いTシャツとデニムのショートパンツは肌色が見えすぎて心配になった。そんな優実が駆け寄ってくるので、慌ててハンカチ を頬から離して蛇口の傍に置く。一方、優実の存在に気付いた月影くんは迷惑そうな顔をした。


「……ちょっとつっきー、なにその顔」

「女子と話すのが面倒なだけだ、気にするな」

「あっ、ちょっと逃げないで! 感じ悪いよ!」


 優実が隣にいる間中仏頂面をするのも感じが悪いだろうけれど、見た瞬間に逃げるほうがもっと感じが悪いと思ったので慌ててその袖の裾を掴んで、逃げようとする月影くんを引き留めた。今度は迷惑そうな顔が私に向けられた。本当に無愛想だなツッキー。

 そんなコント染みたことをしているうちに優実は駆け寄って来て、「ラッキー、お姉ちゃん見つかった!」と嬉しそうな顔をしてみせる。次いでその顔を月影くんにも向けるけれど、月影くんはやはり無表情だ。


「あ……えっと、前に家の前で会った、月影先輩ですよね?」


 月影くんは無言だ。そのくらい頷いてもいいじゃん! 初めて優実に会ったとき、松隆くんが迷わず月影くんのことも紹介したのが正解だったのだと改めて思い知らされる。仲良くなる気のない他人の前での月影くんは無愛想の域を超えている。


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