第三幕、御三家の矜持
「そうそう、月影くん。優実、どうしたの? 私なにか忘れたっけ?」

「あ、ううんー……えっと、その、桐椰先輩に会えるかなーって思って……」


 桐椰くんの名前が出た瞬間に隣の月影くんが反応したのは分かったし、桐椰くんと優実の仲を知ってる私でさえ顔がひきつってしまった。我が義妹ながら凄い行動力だ。桐椰くんに会いたいから体育祭に来るとは言っていたけれど、まさかこんな時間から一人で来るとは。


「桐椰くん……って、徒競走だよね?」


 月影くんは無言だ。この場で月影くん以外に答える人がいないと分かっているくせに無言だ。仕方なく視線を優実に戻す。


「えっと……徒競走だから多分いま走ってるか、終わって待機してるかじゃないかな……グラウンドのほうに行けばいると思うけど……」

「やったっ……あ、ちゃんとお昼からは友達くるから! 心配しないでいーよ。じゃねー」


 よっぽど桐椰くんに会いたいのか、優実は挨拶もそこそこにグラウンドのほうへ行ってしまった。お陰で妙な空気の流れる中に残されてしまう。


「……そ、そろそろ私達もグラウンドへ……」

「あれはどういうことだ」


 話すつもりではあったとはいえ、最悪のバレ方になってしまった……。月影くんの冷たい視線がいつも以上に痛い。真夏だというのになんだか寒気さえするような気がする。


「いえ……御覧の通りで……」

「見た通りであれば君の妹が遼に惚れているな」

「ふ、いくらツッキーといえど人の恋愛事情には疎いようですね。半分不正解です」


 わざとらしく茶化すような口調で答えれば、ギロリとでも聞こえてきそうなほど絶対零度の目に睨みつけられた。ヒェッ、と縮み上がっても許してもらえそうな気配はない。


「すみません悪ふざけが過ぎました……」

「謝罪はいい。早く説明しろ」

「……正確には桐椰くんと優実が両想いなんです……」

「は? 何を莫迦なことを言っているんだ君は?」

「莫迦とはなんですか」


 思いもよらぬ悪態に今度は私が眉を吊り上げてみせたけれど、月影くんの目がその悪態以上に私を罵っていた。なんだこの女、もしかしてこの暑さのせいで脳味噌が溶けているのか、とでも言いたげだ。


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