第三幕、御三家の矜持
「ちょっ……私そんな変なこと言ってなくないですか!? そうだ、順序立てて説明すれば伝わるよね、あのね、登校日の放課後だったんだけど、桐椰くんがいつもみたいに私を家の前まで送ってくれた時にね、偶然優実に会ってね、そしたらなんとびっくり桐椰くんの初恋の人は優実でした、なんて運命の出会いがあってね、」

「君、莫迦なのか?」

「…………(いわ)れのない誹りを受けている」


 何故だ、と月影くんに視線を送るも、私を見返す月影くんの目は本当にこれ以上ないくらい冷たい。なんなら執拗に莫迦か莫迦かと繰り返されるこの状況、登校日の放課後に似ている。何故なのか。


「……そんなに説明が莫迦っぽかった? 運命とかいう言葉嫌いそうだもんね月影くん」

「そんな話はしていないのだが、まさか分かっていないとは言うまいな? そして俺の予感が正しければ、君は君の妹と遼との仲を取り持っているんじゃあるまいな」

「取り持つも何も初恋の相手が自分を好きで舞い上がらないわけなくないですか?」


 至極真っ当な返事をしたはずなのに、月影くんは「はぁー……」と声に出るほど心底呆れた溜息を吐いた。その横顔が莫迦にものを教えるのはこれだから面倒なんだ、と言っている。なんでここまで罵られなきゃいけないんだろう……いや、半分くらいは目に言われているだけだけれど。


「君は……本当に何も分かってないんだな」


 その言葉までも、夏休み前に言われた言葉と似ていた。何の話も聞いてないんだな、とあの時の月影くんは仕方なさそうな目をしていた。でも今はそんな目はしていなかった。本当にただ、心底、呆れているだけだ。


「なぜ、遠回しに諦めさせようとするような真似をする」

「諦めるって何を……両想いなんだよって言ってるじゃん、っていうか下手したら優実も桐椰くんが初恋だったくらいの勢いあるし……」

「遼が好きなのは君の妹ではなくて君だろう」


 ……まさか、それを月影くんに言われるとは思わなかった。ぐっと唇を噛む。


「だから……旅行のときも話したじゃん。桐椰くんは私に優実を重ねてただけなんだよ。桐椰くんが好きなのは優実なんだよ」

「それを遼の口から聞いたのか」

「聞いてないけど分かってるよ。だってあの二人、ちゃんと連絡取ってるんだよ」

「何?」


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