第三幕、御三家の矜持
 打って変わって、月影くんが予想外のような声を出す。それだけで私はどこか、勝ったような、何かから解放されたような気持ちになって、安堵した。そうだ、二人はあの日のうちに連絡先を交換して、ちゃんと連絡を取っている。桐椰くんは今までスマホなんて机の上に放り出していたのに、最近は意識して画面を見られないようにひっくり返してることが増えた。うっかり画面を上向きにしてしまったときは、この間みたいに慌てて掴んで隠すことが増えた。

 大丈夫だ。ちゃんと、あの二人の関係は順風満帆だ。


「疑うなら桐椰くんに聞いてみなよ。ていうか、今二人は両想いの前提で話しちゃったけど、多分付き合ってもいるんじゃない? 新学期になってからまだ一回も桐椰くんと一緒に帰ってないし」

「……まさか」

「別にそんなに驚くことじゃないでしょ。おかしいことなんて何もないじゃん」


 そう、おかしいことなんて何もない。本当に、運命って言葉がぴったりくるくらい順調に進んでる。それを聞いた月影くんは眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。まるで、完璧にしたはずの推理が外れていると指摘され、見落としたヒントを必死に探しているような。


「あ、でもこの話松隆くんにはしてないんだ。松隆くんが──その、どういうつもりなのかよく分からないし……」

「……総がどういうつもりか、だと?」

「ほら……、月影くんも病室で聞いたでしょ? 松隆くんが私を庇ったのはこれからもいい下僕でいてもらうためだって……」


 あの言葉の真意を、私はまだ知らない。いや、そもそもいつか教えてもらえるものなのかさえ分からない。


「……君が言わないでおいてほしいというのなら黙っておくが」

「言わないでとは言わないんだけど……なんていうか、桐椰くんはライバルなんかじゃなかったよ、なんてわざわざ言うのは変だと思って……」

「それはまぁ、そうだが、な……」


 月影くんにしては妙に歯切れが悪かった。そもそも、私を好きになるなんて趣味が悪いと散々(のたま)っていたんだから、もっと喜んでくれてもいいはずだ。それこそ、蝶乃さん以来のまともな彼女ができそうだとか。思考を隠そうとするように口に手を当てて考え込んでいた月影くんは、ややあって眉間を指で押さえる。


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