第三幕、御三家の矜持
「……取り敢えず、このことは保留にしておく。恋愛絡みであるかは不明だが、これに関しては鳥澤のこともあるしな……」

「そういえばそんなものもありましたね」

「罠だと言われたら憤慨したくせに随分な言い草だな」

「いやー、なんというか、事件としてはやっぱり身の危険を感じるもののほうがインパクトがあるといいますか……。そう、鳥澤くんの件、罠の可能性がちょっと低くなってきたんですよー……」

「根拠が君の自意識以外にあるなら詳しく聞こう」


 言い方に棘を通り越して毒がある。いい加減仲良くなったのになんでまだ根強くディスられなきゃいけないんだろう。


「私に誰かが告白したって噂は流れてるらしいんだけど。それを聞いた人が、前々から鳥澤くんが私のことを好きだって同じバスケ部の人に漏らしてたって言ってて」

「その話をした相手は誰だ?」

「薄野芙弓って人。五組の女子で──」

「あぁ、図書役員の彼女か」


 こくりと月影くんは頷いた。「前にクラス一緒だったの?」と訊くと「いや、一緒だったことはない。生徒会役員くらい把握している」とのことだった。なるほど確かに。というか、生徒会の敵に回りながら生徒会役員を把握してない私が甘えすぎている。そろそろ生徒会役員は替わるから、次期役員はきちんと把握しよう。

 月影くんは、ふむ、と顎に手を当て直して考えこむ。


「薄野ならまぁ嘘は吐かない だろうな……その前々から君を好きだと漏らしていたというのは具体的にいつからだ?」

「えーっと……確か四月頃から意識して、五月半ば──私が御三家の下僕になった頃に実は好きだったのにとか言い始めたとかなんとか……」

「まるで迷惑な行為だとでも言いたげな語り方だな」

「いや迷惑とは言わないんですけど、謎ですからね……」


 うーん、と二人仲良く唸ってしまった。ついさっきまで桐椰くんのことで喧嘩にさえなりかけていたから、そう思うと同じ恋愛事情という括りで鳥澤くんの話はいい緩衝材になる。……無意識のうちに私自身も鳥澤くんに悪いことをしている気がしてきた。気を付けよう。

 そのとき、ふとグラウンドに目をやって、三年生の学年競技が始まったことに気が付く。障害物競走は男女の順にこの後だ。


「ツッキー、私達出番だよ! 整列しなきゃ!」

「ん? あぁ、そうか……」


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